社交不安症患者の脳活動における新発見
千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの研究チームが、社交不安症の患者を対象に行った新しい研究が注目されています。この研究では、安静時機能的MRIを用いて、社交不安症(Social Anxiety Disorder: SAD)患者の脳活動における特異な変化を調査しました。成果は、Body Sensory Areaとされる脳の特定領域における活動の低下を示し、さらにはその影響が認知機能や記憶力に関連していることを明らかにしました。
1. 社交不安症とは?
社交不安症は、社交的な場面での過度の不安感や恐怖を特徴とする精神疾患であり、特に青年期に多く見られます。この疾患は、日常生活や学業、仕事に大きな影響を与え、併せて認知機能にも障害が現れることが知られています。前頭前野や扁桃体などの異常が関与しているとの見解もあり、このたびの研究はその理解を一層深めるものとなるでしょう。
2. 研究の方法と手法
研究チームは、健常者40名と社交不安症患者27名を参加者とし、心理的な尺度に基づく重症度の評価と、CANTABを用いた認知機能の評価を行った後、安静時機能的MRIを実施。また、特定の低周波における脳活動(mfALFF)を分析し、社交不安症における脳の働きとその機能の関連を調査しました。
3. 重要な研究成果
解析の結果、社交不安症の患者は、身体感覚情報処理に関連する『体性感覚野』の中心後回において、健常者よりも有意に低い脳活動が認められました。特に、slow-5帯域での活動が低いほど、課題に対する反応時間が長くなるという負の相関が確認されました。このことから、SAD患者における脳活動の周波数依存的な低下が、認知機能の障害に直結していることが示されています。
4. 今後の展望
本研究が示した周波数依存性の神経指標は、今後社交不安症における診断バイオマーカーや新たな治療法の開発に寄与する可能性があります。特に、身体感覚処理に関わる中心後回の活動は、SAD患者の症状の理解を深めるうえで重要な要素と考えられています。
この研究成果は、社交不安症への理解を深める一方で、患者の認知機能の向上に向けた新しいアプローチの開発に貢献するかもしれません。今後のさらなる研究を通じて、社会や医療現場での利用に期待が寄せられています。
5. 用語解説
- - 安静時機能的MRI:リラックスした状態での脳の活動を評価する手法。
- - fALFF:安静時の脳の自発的活動の指標。
- - CANTAB:コンピュータ化された神経心理検査で、注意や記憶、実行機能を評価。
この研究は、社交不安症患者の脳における新たな発見をもたらし、より適切な治療戦略を模索するための重要な足掛かりとなることが期待されています。