農地の保全がもたらす水害抑制と生物多様性の保護
近年、気候変動の影響により水災害が頻発し、その対応策が求められています。特に、Ecosystem based Disaster Risk Reduction (Eco-DRR)という考え方が注目を集めています。これは、農地や都市緑地といった生態系を活用し、防災と減災を同時に実現するアイデアです。東京都立大学の大澤剛士准教授の研究によれば、河川合流の周辺にある農地は洪水の発生を抑制するのに寄与している可能性が示されています。
Eco-DRRの重要性
Eco-DRRは防災や減災の役割だけでなく、生物多様性を保全し、人間社会にさまざまな恩恵をもたらすことが期待されています。農地は本来食料生産の場ですが、副次的に防災機能も持っています。しかし、この防災機能は場所によって異なり、高い機能を持つ農地を見極める方法が求められていました。大澤准教授の分析によると、河川合流周辺に位置する農地は高い防災効果を持つ可能性があるとのことです。
研究の背景
気候変動による自然災害の激化は、ダムや堤防といった人工工事だけでは対処しきれない問題です。このため、自然の生態系を利用した防災手法が再評価されています。農地は水を貯盛する利点を生かして、洪水や土砂災害のリスクを軽減する役割が期待されています。大澤准教授の研究では、農地が水を貯めやすい地形にある場合、水災害の発生を抑制する効果が高いことが確認されています。
研究の実施
本研究では河川合流の地形条件に注目しました。合流地点は水量が急激に増加する特性があり、ここでの洪水発生が懸念されています。実際、2019年の東日本台風によって被害を受けた那珂川周辺では、洪水の発生が顕著でした。こうした特性から、合流周辺に水を貯めやすい農地が多く存在することが、洪水抑制に寄与しているのではないかという仮説が立てられました。
全国の市区町村を対象に、洪水発生頻度と農地の量を統計モデルで分析。その結果、水が溜まりやすい農地が多い地域で洪水の発生頻度が低いということが確認されました。また、国土交通省のデータを用いた検証でも、合流周辺の農地が特に洪水を防ぐ役割を果たすことが明らかになりました。
研究の意義
河川の合流地点は日本全国に存在します。合流周辺の農地を守ることで、食料生産と防災が同時に実現可能であり、これは土地利用計画において非常に重要な指針となるでしょう。さらに、河川合流周辺の農地は洪水を好む生物にとって良好な環境を提供し、生物多様性の保全にも寄与することが示されています。このことから、農地の保全がもたらす利益は、単なる防災を超えて、地域全体の生態系を豊かにする可能性を秘めています。
合流周辺の農地を賢く活用することは、水害対策に加え、ネイチャーポジティブな取り組みにもつながることが期待されます。本研究の成果は、未来の土地利用のあり方に一石を投じるものとなるでしょう。