初期宇宙での銀河進化を探求する新たな研究
2020年10月、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)と早稲田大学、国立天文台が参加する国際共同研究プロジェクトALPINE(アルパイン)が、チリのアルマ望遠鏡を使用して初期宇宙における成長過程の118個の銀河を詳しく調査しました。
この研究において驚くべきことは、調査対象となった銀河の多くが非常に多くの星間塵や金属元素を抱え、既に回転円盤銀河に成長する兆しがあることが明らかになった点です。従来の見解では、宇宙の誕生からまだ短い時期にあたる初期宇宙では、これほどまでに成熟した銀河が存在するとは考えられていませんでした。これにより、銀河の進化が非常に早い段階で進行している可能性が示唆されることになりました。
調査の背景と目的
ほとんどの銀河が宇宙の若い時期に形成されると考えられています。例えば、私たちの天の川銀河はおよそ136億年前に形成が始まったとされています。しかし、138億年前に宇宙が誕生し、その後10〜15億年で多くの銀河が急速に成長したのは、銀河の形成と進化の重要な時期です。これを理解することは、天の川銀河などのつくりを知るためには不可欠です。
ALPINEは、アルマ望遠鏡などの先端技術を駆使し、初期宇宙で成長中の118個の銀河の観察に成功しました。結果として、研究チームはこれらの銀河が従来の予想以上に成熟していることを確認しました。
銀河の成熟と含まれる物質
銀河中に多量の星間塵や重元素が存在する場合、それは成熟した銀河と見なされますが、通常初期宇宙の銀河は、十分な星を作る時間がないため、ほとんど塵や金属元素を含まないと予測されていました。しかし、今回の観察より、約20%の銀河が既に非常に多くの塵を抱えていることが明らかになりました。スイスのジュネーヴ大学のダニエル・シャレール氏は、「本来、若い銀河には塵が少ないと考えていましたが、この研究で新たな知見を得ました」と発言。
さらに、研究チームは初期の銀河の塵が後の段階のものとは異なっており、銀河の進化を示す手がかりを提供することができました。宇宙の誕生からおよそ10〜15億年の間に、塵が急激に形成される様子が初めて確認され、初期宇宙の銀河における重要な成長時期であることが示されました。
銀河の構造と進化
観測された銀河は、回転円盤銀河に成長する兆しを持つ多様な構造を示しており、比較的成熟した銀河として位置付けられました。一般的に初期宇宙の銀河は、頻繁に衝突し、綺麗な構造を持たないと考えられていました。しかし、Kavli IPMUのジョン・シルバーマン准教授は、観測した銀河の多くが規則正しい回転をしていることを確認し、銀河系のような構造を形成しつつあることを強調しました。
さらなる研究への期待
ALPINEの観察により、これまでの研究からは明らかにされていなかった銀河の急速な進化のメカニズムについて新たな知見が得られました。ですが、なぜ一部の銀河が既に回転円盤を持つのか、その理由は依然として未知です。ALPINEチームは、さらなる観察を通じて、銀河の環境が成長に与える影響を解明することに尽力する意向を示しています。
ALPINEの研究は、初期宇宙における銀河の進化に関するさらなる理解を促進するための新たな道を開くものであり、今後の研究に大きな期待が寄せられます。
本研究の詳細なデータについては、以下のリンクよりご覧いただけます。
ALPINEグループの研究成果