シリコン量子ビット素子の特性変化の原因が解明
国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究チームが、シリコン量子ビット素子における特性変化の原因を初めて明らかにしました。この発見は、量子コンピューターの安定動作に向けた重要な進展となり、今後の技術開発に大きく寄与することが期待されています。
特性変化の現象とは?
量子ビットは、量子コンピューターの基本的な素子であり、計算を担う一方で時間の経過と共に特性が変化することが知られています。特に、数十秒以上の長い周期での変化が観測されており、計算の正確性に影響を及ぼす要因となっています。この状態で計算を行うと、エラーが生じるため、量子ビットの状態を定期的に診断し、調整する必要があります。これには時間がかかるため、利用者にとっては大きな障害となっていました。
長周期特性変化の原因を特定
今回の研究では、シリコンFin型量子ビット素子における特性変化の原因が、絶縁膜と半導体の界面に存在する電子のトラップ現象であることが特定されました。この研究は、量子ビット素子が高集積化される過程での特性変化についての強い示唆を提供します。
研究チームは、特性変化の原因を探るために、Fin型のトランジスタを使用しました。この構造により、ゲート電極の電圧を変えながら、電流値の時間変化を追跡することが可能になりました。その結果、サブスレッショルド領域の特定の電圧条件において、周期的な特性変化が生じることを発見したのです。
突き止められたトラップ準位
トラップ現象を引き起こす要因として、バンドギャップの端に存在する準位が特定され、これがシリコン量子ビット素子の特性変化に寄与していることが示されました。特に、絶縁膜と半導体界面の欠陥が、電子のトラップ準位を生じさせ、その結果として特性の変動が発生していると考えられています。
今後の展望
この研究成果は、量子ビット素子の安定性向上に向けた製造技術の開発の指針となります。今後は、得られた知見をもとに、シリコンFin型量子ビット素子のプロトタイプを試作し、動作検証を行う予定です。また、界面の高品質化を含めたプロセス技術の開発にも力を入れていきます。
学会での発表予定
この研究成果は、2024年12月7日から米国サンフランシスコで開催される「IEEE International Electron Devices Meeting 2024」にて発表される予定です。シリコン量子ビット素子の安全かつ安定した運用を目指して、研究者たちはさらなる実験と技術開発に挑むことでしょう。
まとめ
シリコン量子ビット素子の特性変化の原因を明らかにした今回の研究は、量子コンピューターの実用化に向けた一歩となります。安定動作への道筋が示され、今後の進展に期待が寄せられています。