歩行中の身体アライメント解析による新たな発見
近年、健康に対する姿勢の重要性が再認識され、様々な研究が行われています。特に、猫背や反り腰といった不良姿勢が健康に及ぼす影響についての関心が高まっています。しかし、姿勢が健康に与える具体的な理由は、依然として解明されていない部分が多いのが現状です。このような背景の中で、花王株式会社(社長・長谷部佳宏)のヒューマンヘルスケア研究所は、歩行中の身体アライメントを解析し、慢性的疲労との関連性を明らかにしました。
身体アライメントとは何か?
身体アライメントとは、骨格や関節、筋肉の位置関係やバランスのことを指し、健康な姿勢を保つための重要な要素です。花王は「Walk Coordinator(ウォークコーディネーター)」という技術を活用し、この身体アライメントを詳細に解析する方法を確立しました。歩行は自然な動作である一方、意識してコントロールしにくいため、歩行中の身体アライメントを測定するアプローチが有効とされます。
歩行解析による身体アライメントのデータ取得
花王は2023年、歩行解析アプリを用いて919人のデータを取得しました。このアプリは、スマートフォンをお腹に抱えて歩くことで、わずか8歩の歩行で骨盤や関節の角度、可動性を測定します。取得した52項目のデータを機械学習で分類し、身体アライメントの癖やゆがみのタイプを明らかにしました。
データから導かれたのは、7つの小さなグループに分類可能であり、更に大きく3つのタイプ(A、B、Cタイプ)に集約できることでした。Aタイプは相対的に良好な身体アライメントを保っている一方、Cタイプは多くの項目でゆがみが認められました。Bタイプはその中間に位置し、疲労度についても特徴的な傾向が見られました。
身体アライメントと慢性疲労の関係
2024年には196名の被験者を対象に、身体アライメントのゆがみと慢性的疲労度のスコアを比較する研究を実施しました。結果、身体アライメントが良好なAタイプでは疲労度が低い傾向が見られ、Cタイプでは逆に疲労度の高い人が多いという明確な差が確認されました。このことは、身体アライメントのゆがみが慢性的疲労に密接に結びついていることを示唆しています。
一方で、Bタイプは疲労度が混在しており、身体アライメントだけでは説明できない要因も存在することが考えられました。これは、疲労に対する身体の反応が個々に異なることを示しています。
インソールによる補整の可能性
身体アライメントを補整するためのアプローチとして、物理的な支援具、特にインソールの効果を調べました。114人を対象にした研究では、インソールを着用することで骨盤角度の改善が確認され、具体的には着用前に比べて0.95°の傾きが0.22°に改善されたことがわかりました。この結果は、インソールを使用することで身体アライメントを補整できる可能性が示唆されます。
まとめ
花王の歩行解析技術によって、身体アライメントの解析が新たな健康の観点から注目されています。慢性的疲労との関連が明らかになることで、姿勢を改善することが疲労対策として重要な手段であることが示されました。さらに、インソールなどの支援具を通じた身体アライメントの改善も期待されています。今後、これらの知見が新たな製品やサービスの開発に生かされることが望まれます。また、身体アライメントに関連するさらなる研究が進められることにより、精神的健康や意欲低下、ストレスといった他の側面にもアプローチできる可能性が広がっています。