共同開発の背景と目的
新型コロナウイルスの流行が続く中で、感染者を迅速に識別し適切な医療を提供するためには、大量の検体を効率的に検査する手法が必要です。新型コロナウイルスの変異株も増え続ける現在、その影響を受けるのは医療従事者だけでなく、社会全体です。これに対抗するため、北里研究所は「COVID-19対策北里プロジェクト」を展開し、その一環として、東洋紡、椿本チエインの協力を得て新たな検査システムの構築に乗り出しました。
このプロジェクトではプール方式、多検体検査とも呼ばれる手法を採用しています。この手法は、複数の検体を一つにまとめて検査することで、時間と費用の両方を削減し、高速な結果提供を可能にするものです。しかし、従来の手法では感染者のサンプルが健常者のものに希釈され、検出感度が低下するという課題がありました。これを克服すべく、本研究では高精度かつ信頼性の高い「全自動多検体検査法」を確立することを目指しています。
研究の主な取り組み
本研究では、以下の技術的課題に取り組み、全自動多検体検査法の実現を目指しています。
1.
プール法による多検体検査
一日あたり13,000件の検体を処理できるシステムの開発と、検体のIDを管理するシステムの確立。
2.
新しいRNA検査方式の構築
最新のDNAポリメラーゼ技術を使い、煩雑なRNAの精製作業を不要にする検査方法の実現。
3.
無人化と自動稼働の検査システム
自動化したミニラボラトリーを導入し、夜間でも稼働可能な全自動検査を実施。
4.
感染症検査の幅を広げる
新型コロナウイルス以外の感染症検査にも応用できる体制の構築。
椿本チエインによる自動化の強化
椿本チエインは、全自動検査の核となる「自動化ミニラボラトリー」を開発しました。これは、受け入れ、分注、前処理、PCRから結果判定までの全工程を自動化する装置です。以下にその特長を紹介します。
検体容器のピッキングや蓋の開閉など、検査工程をすべてロボットによって制御します。
正確な分注とともに、混入リスクを低減するための技術が組み込まれています。
複数の検体を自動で処理する能力を持ち、高粘度な液体にも対応可能です。
今後の研究展開
この全自動多検体検査法の開発により、医療現場での迅速な検査が実現することが期待されています。さらには、空港での入国時検査や大規模イベント時の感染症検査体制にも活用される見通しです。これにより、社会全体の感染症対策が一層強化されることが期待されます。
この研究は、AMED(日本医療研究開発機構)のウイルス等感染症対策技術開発事業の支援を受けています。未来の医療を支えるための革新的な取り組みとして、今後の進展が注目されます。