ニュートリノ反応率測定成功
2024-07-16 15:03:39

加速器史上最高エネルギーでのニュートリノ反応率測定に成功! 素粒子標準模型検証へ新たな一歩

加速器史上最高エネルギーでのニュートリノ反応率測定に成功! 素粒子標準模型検証へ新たな一歩



千葉大学大学院理学研究院の有賀昭貴准教授(スイス・ベルン大学兼任)と九州大学基幹教育院・共創学部の有賀智子准教授らの国際研究グループは、FASER国際共同実験において、CERNが所有する世界最高エネルギーの加速器、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いて、テラ電子ボルト(1TeV)の電子ニュートリノとミューニュートリノの反応断面積(物質との相互作用の強さ)を測ることに世界で初めて成功しました。

この研究成果は、素粒子標準模型の検証に貢献し、高エネルギーでの未知の物理の有無が明らかになると期待されています。

背景:宇宙の謎を解き明かすために



素粒子物理学は、宇宙の成り立ちをミクロの世界から理解する学問です。物理学者たちは、素粒子標準模型と呼ばれる理論体系を構築してきましたが、「なぜこの宇宙は物質で構成され反物質がほとんどないのか?」「ダークマターとは何か?」といった疑問に対する答えを見つけることができていません。これらの疑問を解き明かすためには、既存の理論の枠組みを超えた未知の物理機構の存在が必要となります。そのため、素粒子標準模型の精査や未知粒子探索が行われています。

素粒子標準模型では、電子、ミューオン、タウの3世代の荷電レプトンとその対応する電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノが存在し、3世代が同じように「弱い相互作用」をすると考えられてきました。しかし、近年の研究により、3世代の荷電レプトンとニュートリノが予想に反した振る舞いをしている可能性が示唆され、「フレーバー異常」と呼ばれています。つまり、ここに新しい物理現象や未知の相互作用が存在し、素粒子物理学の未解決の問題を突破する可能性があるのです。そこで、3世代のニュートリノを使って素粒子の相互作用を詳細に調べる研究が進められています。特に、ニュートリノはこれまでにTeV領域での反応断面積が測定されたことはなく、新物理の影響が見られるかどうかが注目されています。

世界初の挑戦:LHCを用いたニュートリノ検出



有賀昭貴准教授、有賀智子准教授、ベルン大学の大橋健研究員、九州大学基幹教育院の河原宏晃学術研究員、千葉大学理学研究院の早川大樹特任助教、名古屋大学未来材料・システム研究所の佐藤修特任准教授、六條宏紀助教、名古屋大学理学研究科の中野敏行准教授、CERNの稲田知大研究員、高エネルギー加速器研究機構の田窪洋介研究機関講師(現・新居浜工業高等専門学校 准教授)、九州大学理学研究院の音野瑛俊准教授らの国際研究グループは、LHCでの陽子衝突によって1TeV程度の高いエネルギーのニュートリノを作り、衝突点から480m離れた地点に検出器を置いて捕まえるという新方式を提案し、2022年より実験を行ってきました。

研究成果:電子ニュートリノの検出に成功



本研究では、大量の背景事象の中から高いエネルギーの事象を選び出すことにより、電子ニュートリノとミューニュートリノの検出に成功しました。電子ニュートリノに関しては、LHC実験の中で今回が初めての観測です。電子は物質と相互作用すると電磁シャワーを起こすことが知られており、その様子が検出器中で美しく観測されています。

TeVエネルギー帯のニュートリノは、従来型の加速器実験では到達できず、宇宙線起因のニュートリノでも探れない空白地帯でしたが、本研究で初めて反応断面積を測定しました。1TeVの反応断面積として、電子ニュートリノが〖1.2〗_(-0.7)^(+0.8)×10^(-35) cm^2、ミューニュートリノが0.5±0.2×10^(-35) cm^2と得られました。誤差の範囲内ではありますが、素粒子標準模型からの予測値と矛盾しない結果といえます。

今後の展望:さらなる研究で宇宙の謎に迫る



本研究により、衝突型加速器を用いて高エネルギーのニュートリノの物質との相互作用が測定できることを示しました。今後数年かけて検出するニュートリノの統計数を100倍にし、3世代のニュートリノに差があるのか、そこに未知の力が隠されているかなどの問いに答えていきます。特に、今後の研究で検出が期待されるタウニュートリノは実験的理解が乏しいため、未知の物理機構の解明に繋がる可能性があると考えます。

この研究は、宇宙の謎を解き明かすための重要な一歩となるでしょう。


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国立大学法人千葉大学
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千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33 
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