ワイヤレスOLEDデバイスによる深部臓器がん治療の革新
防衛医科大学校の研究チームが開発した新しいメトロノミック光線力学療法(mPDT)は、深部臓器に発生するがんに対する全く新しいアプローチを提供します。この治療法は、ワイヤレスで駆動する体内埋め込み型の有機EL(OLED)デバイスを使用し、極めて低強度の光を数日間にわたって腫瘍に照射することでがん細胞を持続的に死滅させることができます。
新技術の開発背景
光線力学療法(PDT)におけるこのメトロノミックアプローチは、がん細胞を選択的に攻撃しながら正常組織へのダメージを最小限に抑えることを目的としています。従来の治療法では、光を照射するためにレーザーを用いることが一般的でした。しかし、レーザーは小型化や柔軟性に限界があり、体内深部での連続照射を可能にする技術には多くの課題がありました。
本研究では、特に深部臓器がんに対応するために、超薄型のワイヤレスOLEDデバイスが開発されました。このデバイスは、厚さわずか0.1mm、直径8mmの発光面から緑色または赤色の光を照射することができ、無線給電技術を使用して動物が自由に動いている状態ででも安定した光照射を実現しています。
実験結果
ラットの肝臓がんモデルを用いた実験では、光増感剤であるテモポルフィンを腫瘍に投与後、最大4日間にわたって連続的に光照射を行った結果、腫瘍の大幅な縮小や完全消失が観察されました。特に赤色OLEDを使用した場合、腫瘍の深部及び周辺部まで効果的に光が届くことが証明され、その治療効果が拡大されることが確認されました。
安全性と今後の展望
安全性評価においては、体重や肝酵素の変化は見られず、有意な副作用も確認されていません。さらなる生体適合性向上のために、デバイスはパリレンCでコーティングされ、免疫反応による影響を最小限に抑制されています。
この技術の導入により、深部臓器がんに対して安全かつ効果的な低侵襲治療法が確立されつつあり、将来的には自宅での治療が可能となる「在宅型メトロノミックPDT」の実現が期待されています。また、より小型・柔軟なデバイスに進化することで、消化管や呼吸器、泌尿器など多様な形状の臓器にも応用される可能性があります。
研究の出典
本研究は、2025年4月30日に米国科学誌『APL Bioengineering』に掲載され、注目論文として紹介されています。また、この研究に関連する記事がオンラインコンテンツ「Scilight」にも掲載され、多くの注目を集めています。研究チームは今後も光増感剤の最適投与タイミングやがん微小環境への影響などの理解を深め、個別化治療の実現に向けて取り組む予定です。
本技術は、深部臓器がんに対する全く新しい治療オプションを開発することで、がん治療における革命を引き起こすことが期待されています。