高齢心不全における握力の低下と予後
近年、日本を含む世界各国で高齢化が進展する中で、心不全患者の増加は深刻な社会的課題となっています。このような背景を受けて、順天堂大学の研究チームが、心不全患者における握力の低下が予後に与える影響を検討した研究が注目を集めています。特に、握力は易しく測定できる指標であり、それが持つ予後指標としての重要性が明らかにされました。
研究の目的と背景
研究チームは、高齢の心不全患者を対象に、退院前に測定された握力の低下が、退院後2年間の全死亡率にどのように関連するのかを調査しました。心不全は加齢に伴い進行する全身的な脆弱性が特徴的であり、特に高齢者では筋力の低下や身体機能の衰えが強く影響します。これまで握力が心不全患者の予後にどのように関連するかについては一致した見解が得られておらず、特に高齢層に限定した研究が不足していたため、今回の研究が行われました。
研究方法
研究は2016年から2018年にかけて実施された、国内15施設の多施設共同前向きコホート研究「FRAGILE-HF」に基づいて行われました。65歳以上の急性非代償性心不全で入院した1,290名の患者(中央値年齢81歳、男性58%)のデータが対象となり、握力は種別ごとに基準値で標準化され、3つの群(高値、中間、低値)に分類されました。
これにより、予後との関連を詳細に解析しました。注目すべきは、2年間の追跡期間中に死亡した患者の中で、握力の低い群において死亡率が段階的に上昇することが確認され、特に低値群(T3群)では明確な生存曲線の乖離が認められました。
研究結果
研究の結果、握力低下は従来のリスク因子とは独立した予後因子であることが示されました。具体的には、握力の低下が進むにつれて、死亡リスクが有意に増加し、特に加齢とともにその相関が強まる傾向がありました。女性・男性ともに、この結果は一致しており、握力低下は高齢心不全患者において独立した予後不良因子であることが確認されました。
また、既存のMAGGICリスクスコアに握力を加えることで、患者のリスク層別化が向上し、より適切な予防策や介入が可能になることが示唆されました。この成果は、心不全患者において握力評価を取り入れることが、全体的な健康管理の向上へとつながる可能性があることを示しています。
今後の展望
今回の研究によって、握力というシンプルな指標が、高齢心不全患者の予後における予測能を持つことが明確となりました。今後は、握力評価を診療基準に組み入れ、より効果的な心不全管理へとつなげていくことが求められます。この研究成果が、実際に介入研究や、在宅医療への応用へと結びついていくことが期待されます。これにより、高齢者の心不全患者に対するケアが一層充実し、予後の改善に寄与することを願っています。