高齢がん患者に対する家庭用EMSの可能性
関西医科大学の研究によって、高齢がん患者に対する家庭用の骨格筋電気刺激装置(EMS)が下肢機能の改善とサルコペニアの軽減に寄与する可能性が示されました。主導したのは、小坂久講師を中心に構成された研究チームであり、その成果は「Archives of Rehabilitation Research and Clinical Translation」に発表されています。
背景
高齢がん患者は、筋肉量や筋力が低下する「サルコペニア」の状態にしばしば直面します。これが生活の質 (QOL) に悪影響を及ぼし、生存期間や予後にも影響を及ぼすことが知られています。特に抗がん剤治療中の患者は、慢性的な疲労感や副作用、通院の煩わしさなどから、リハビリテーションが十分に行えないケースが少なくありません。これを受け、家庭での安全なリハビリ手法が求められています。
研究の目的と方法
この研究の目的は、高齢がん患者における家庭用EMSを用いたリハビリテーションが下肢機能やサルコペニアに与える影響を明らかにすることです。2023年3月から2024年7月まで、関西医科大学病院を受診した53名のがん患者が対象となり、2つのグループに分けて家庭用EMSを使用した4週間の在宅自己リハビリテーションが実施されました。「Short Physical Performance Battery (SPPB)」のスコアに基づき、下肢機能が正常なグループと低下しているグループに分類され、効果が測定されました。
EMSは1日1回15~23分間、4週間にわたり使用され、その間の使用日数の中央値は28日でした。また、EMSに関連する有害な事象は報告されませんでした。
結果
下肢機能の改善
SPPBスコアが9以上のグループにおいては有意な改善は見られなかったものの、SPPBスコアが9以下の低下群ではバランス能力や歩行速度において有意な改善が認められました。具体的には、歩行速度や椅子からの立ち上がり動作などが改善し、下肢機能の向上が実証されました。
サルコペニアの軽減
さらに、重度のサルコペニアと評価された患者の割合が、EMSを用いた介入前の66.7%から介入後には36.4%に減少したことが確認されました。これは、家庭用EMSが高齢がん患者の筋肉量の減少を抑え、筋力を維持・改善する可能性を示唆しています。
結論
このパイロットスタディの結果は、家庭用EMS機器を用いた4週間の在宅リハビリテーションが、高齢がん患者の下肢機能を改善し、サルコペニアの軽減に寄与する可能性を示しています。これにより、がん患者における代替リハビリテーションの選択肢が拡がることが期待されます。また、MTG社は今後もこの分野での研究と開発を進め、より多くの患者に質の高いサポートを提供することを目指しています。
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