非貴金属系光触媒による持続可能な水素製造技術の革新
東京都立産業技術研究センター(都産技研)は、慶應義塾大学及びフォトジェン株式会社との共同研究を通じて、太陽光と海水を利用してグリーン水素を効率的に生成する新しい技術を開発しました。これは、酸化チタンの構造にTi3+を安定的に導入し、高い表面積を保持する方法により実現されました。この研究成果は持続可能な水素社会の実現に向けた大きな一歩となります。
研究の背景
太陽光を利用して海水を分解し、次亜塩素酸を生成する過程では、光触媒の劣化が大きな課題でした。安価で安定した光触媒として注目されている酸化チタンですが、これまでの技術では紫外光下でしか効果を発揮せず、水分解には向いていませんでした。
この研究では、新たに開発された粉砕処理技術を用いて、酸化チタンの格子内にTi3+を安定的に導入することに成功しました。これにより、光応答性が大幅に改善され、特に太陽光下での水素生成能力が向上しました。
開発された新技術
研究チームは、エタノールを添加した湿式ビーズミル粉砕法を使用して、0.3 mmほどのビーズを用いて酸化チタンを処理しました。この処理により、粉砕と同時に凝集が発生し、高い比表面積を保持したまま、Ti3+を酸化チタンに安定的に導入できることが分かりました。
さらに、可視光および紫外光を同時に照射すると、紫外光のみの照射よりも約9倍の水素生成速度が観測されました。特筆すべきは、非常に少量のエタノール(0.005 vol%)を加えることで、海水分解反応の効率が向上した点です。これは、エタノールが塩素イオンの還元を助ける役割を果たすためと考えられます。
研究成果の詳細
最新の研究成果については、2024年8月にオープンアクセスジャーナル「Current Research in Green and Sustainable Chemistry」に掲載予定です。さらに、海水分解についての研究は、第134回触媒討論会で発表されます。
水素生成の過程では、紫外光と可視光の併用により、反応開始から約20分後には水素生成が確認され、その後さらに効率が上がっていくことが示されています。特に、人工海水を添加することで水素生成量が顕著に増加し、持続可能な水素製造への期待が高まります。
今後の展望
今後は、この技術を基にしてさらなる性能向上を目指した研究が行われる予定です。有効な反応環境を拡大し、実用性を確保しながら、太陽光による海水分解技術の実用化に向けて取り組んでいくことが求められます。この技術が実用化されれば、環境負荷の少ないエネルギー利用が実現するかもしれません。
持続可能なエネルギー社会の実現に向けた道のりは長いですが、今回の成果は確かな進展をもたらしました。未来のエネルギー源として、グリーン水素はますます重要な役割を果たすことでしょう。