日立とAIが切り開く医薬原料生産の革新
株式会社日立製作所と、合成生物学スタートアップのファーメランタ株式会社、そしてAI技術を駆使するエピストラ株式会社。この三者が共同で行った新たな研究が、医薬品の原料生産において革新をもたらそうとしています。特に、抗がん剤の生産において重要な役割を果たす医薬原料中間体「(S)-レチクリン」の生産効率が飛躍的に向上しました。この取り組みは、AIとシミュレーション技術を組み合わせたもので、世界的にも高い収量を記録し、ラボの実験回数を最大で73%も削減することに成功しました。
1.実施されたラボスケールの実証
今回の実証では、ファーメランタが開発した「スマートセル」を利用し、エピストラの「Epistra Accelerate」によって最適条件を確立しました。11の変数をもとにした膨大な条件設定の中から、60回の実験を経て最適条件を特定し、(S)-レチクリンの収量を3.2 g/Lから6.0 g/Lへと向上させました。この結果は、業界において非常に注目されるもので、医薬品の製造過程に革新をもたらすものとして期待されています。
2.スケールアップへの挑戦
今回のラボスケールの実証を経て、2025年度中にはパイロットスケールでの収量低下を抑制した生産に向けた実証が予定されています。日立は、この技術を基に生産プロセスの構築支援を行い、北米などグローバルな展開を目指しています。これにより、医薬品製造の効率を大幅に向上させると同時に、コスト削減にもつなげる狙いがあります。
3.「AI×シミュレーション×スマートセル」の力
本プロジェクトの最大の特徴は「AI×シミュレーション×スマートセル」という新たな統合プロセスにあります。特に、エピストラのAI技術が運転条件を最適化し、日立のシミュレーション技術がスケールアップ時の物理環境を補正することで、収量の再現性を高めているのです。この取り組みは、バイオ医薬品の商業生産における課題解決の一助となり、今後の業界全体への波及効果も期待されています。
4.持続可能な生産に向けて
また、今回の取り組みは、持続可能なバイオ生産にも寄与します。産業バイオ分野では、生物由来の素材を使った製造プロセスが注目されており、これによりカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現にも寄与できる可能性があります。具体的な成果を通じて、バイオ医療や産業バイオの未来を形作る基盤となるでしょう。
5.今後の展望
日立とファーメランタ、エピストラのコラボレーションがもたらす新たな医薬品生産の可能性は、業界全体に革新をもたらすでしょう。日立は、これまでの実績を活かしながら、「HMAX Industry」としてデジタルサービスの提供を目指しており、このプロジェクトが成長産業への展開を加速することを期待しています。
「すべての人々に有効成分を届ける」ことを目指すファーメランタ、ライフサイエンス分野での発展を支えるエピストラ、これらの企業が手を組むことで、医薬品業界の生産性が飛躍的に向上する。これからの進展から目が離せません。