高山帯生態系と山麓の結びつきが明らかにされた新たな研究成果
千葉大学大学院理学研究院の村上正志教授と筑波大学の飯島大智氏による研究が、長野県と岐阜県間の乗鞍岳を対象に実施され、山麓から高山帯への資源供給の重要性が明らかにされました。この研究成果は、2025年2月24日に国際学術雑誌「Ecology」に掲載される予定で、今後の保全策の検討に寄与することが期待されています。
研究の背景
高山帯は一次生産が少なく、動物たちは限られた餌資源の中で生きています。鳥類は残雪上に落ちた節足動物を食べることが観察されており、これらの資源は山麓の森林から運ばれてくると考えられています。しかし、地元の生態系構造において山麓から高山帯に運ばれる資源がどれほど重要であるかを実証した研究はこれまで存在しませんでした。
本研究では、特に高山帯で繁殖する鳥類たち(ライチョウ、イワヒバリ、カヤクグリ)の餌源に着目し、山麓からの資源供給がどのように影響を及ぼしているのかを検証しました。
研究方法
研究チームは高山帯と亜高山帯で節足動物の採集を行い、それぞれの季節における個体数の変動を記録しました。また、特定した鳥類の糞を採取し、DNAメタバーコーディング技術を用いて餌生物を調べました。この方法により、糞中の遺伝子を分析し、どの節足動物が餌として利用されているかを特定することが可能となりました。
研究成果
調査の結果、高山帯の残雪上で見られるアブラムシの中でも、山麓由来のものが約40%に達することが分かりました。この発見は高山帯と山麓の環境がどのように相互に影響を与え合っているかを示唆しています。また、高山性鳥類の繁殖期には、残雪上でのアブラムシの存在が彼らの生存において重要な役割を果たしている可能性があります。
今後の展望
この研究は、高山帯の生態系を形成する要素が気候変動によってどのように影響を受けるかについて、新たな視点を提供します。今後は、資源の流れに着目しながら、気候変動が高山帯の生物多様性保全に及ぼす影響を解明していくことが求められます。
用語解説
1.
一次生産:植物が二酸化炭素から有機物を生成する過程。
2.
季節消長:生物の個体数が季節とともに変動する現象。
3.
DNAメタバーコーディング:対象生物の糞からDNAを抽出し、食品源を特定する技術。
4.
PCR:特定のDNA領域を増幅する技術。
研究プロジェクトについて
この研究は、科学研究費助成事業の支援を受けて実施されました。今後の研究によって、高山帯の生態系に対する保全策が推進されることが期待されています。