金融イノベーションと決済システム:加藤理事の講演から考える未来の金融

金融イノベーションと決済システム:加藤理事の講演から考える未来の金融



2024年5月31日、日本銀行理事 加藤毅氏は、「Meetup with BOJ」にて「金融イノベーションと決済システム:検討の『広がり』と『深まり』」と題した講演を行いました。講演では、近年注目を集める金融イノベーション、特に決済システムの未来について、中央銀行の立場から具体的な課題と展望が語られました。

# 新たな技術がもたらす変化:決済システムの「広がり」



加藤氏は、世界各国の中央銀行がフィンテック、金融イノベーションの促進を優先課題として取り組んでいる現状を説明。日本銀行においても、2016年にFinTechセンターを設置し、フィンテックが金融サービス向上や経済成長に貢献できるようサポートを行っていることを明らかにしました。

講演では、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の取り組みが具体的に紹介されました。日本銀行は、2021年から一般利用型CBDCの実証実験を進めており、昨年4月からは「パイロット実験」を実施。技術的な実現可能性を検証するとともに、民間事業者との議論を通じて、CBDCの将来像を探っています。

また、講演では、ステーブルコインやトークン化された銀行預金といった「新たな形態のマネー」の存在も注目されました。国際決済銀行が提唱する「統合台帳」の概念が紹介され、分散型台帳技術を用いて、各国の中央銀行マネー、民間銀行マネー、デジタル資産を共通プラットフォーム上で管理・決済することで、効率性向上を図れる可能性が示されました。

さらに、日本銀行が欧州中央銀行との共同調査「プロジェクト・ステラ」や、国際決済銀行の実験プロジェクト「アゴラ」への参加についても言及。これらのプロジェクトを通じて、新たな技術を活用した決済インフラの構築に向けた研究開発が進められています。

# 技術だけではない:決済システムの「深まり」



講演では、新たな技術活用に伴う課題についても深く掘り下げられました。

まず、技術の導入だけでは不十分で、制度や取引慣行、業務プロセスなどの見直しも必要であると強調されました。イノベーションを効果的に実現するためには、技術と制度改革の両輪が不可欠であるという認識を共有する必要性が示されました。

また、新たな技術の安定性を支える法的基盤の整備も重要だと訴えられました。分散型台帳技術を活用した場合、法的な位置づけや権利の保護、取引の安全性の確保など、様々な論点が出てくるため、法的整備が急務となります。

さらに、市場流動性と資金流動性に対する認識の深まりも指摘されました。統合台帳のように、様々なマネーや資産が安定的に取引・決済されるには、市場の厚みと既存の金融市場インフラとの相互運用性が重要となります。一方で、即時グロス決済など、新たな技術による資金流動性の向上は、決済資産に対する需要の振れを大きくする可能性も孕んでいます。そのため、効率的な決済処理、流動性配分、柔軟な流動性供給のメカニズムなどを意識した検討が必要であると強調されました。

# 社会と中央銀行のデジタル・トランスフォーメーション



講演の後半では、中央銀行のイノベーションへの取り組みは、決済分野にとどまらないことを説明。日本銀行は、中期経営計画において、「デジタル社会にふさわしい高度で安定的な中央銀行サービスの提供(DX推進)」を掲げ、オルタナティブデータの調査・研究や、AIを活用した業務効率化に取り組んでいることを明らかにしました。

特にAIについては、業務効率化や価値創造への貢献が期待される一方、技術的な課題や倫理的な側面についても考慮する必要があると指摘されました。モデル投入データの適切性、モデルの説明力、モデル推計結果の公平性、金融システムへの影響、倫理的な問題点など、AI活用に伴うリスクを認識し、責任ある運用を行う重要性を訴えました。

# 金融イノベーションは相互作用によって実現



講演の最後には、金融イノベーションを促進し、我が国経済の発展を実現するためには、中央銀行と民間部門との相互作用が重要であると力説されました。中央銀行は、金融分野における民間のイノベーションの触媒役としての役割を担い、決済システムの安全性と効率性を確保するための取り組みを継続していく必要があると強調しました。

加藤理事の講演は、技術革新がもたらす変化と課題を具体的に示し、中央銀行がどのように対応していくべきかを明確に示すものでした。今後の金融イノベーションの動向を注視していく上で、重要な示唆を与えてくれる講演でした。

加藤理事の講演から見た、決済システムの未来:中央銀行と民間部門の協調が鍵



加藤理事の講演は、金融イノベーションが急速に進展する中で、中央銀行がどのように対応していくべきか、その方向性を示すものでした。特に、決済システムの将来像を巡る議論は、従来の枠組みを超えた革新的なアイデアと現実的な課題が複雑に絡み合っていることを浮き彫りにしました。

講演で強調されたのは、技術革新そのものだけでなく、制度や取引慣行、業務プロセスなどの見直しも重要であるという点です。新たな技術を導入するだけでなく、既存の制度や慣習を見直し、技術革新と制度改革を有機的に組み合わせることで、イノベーションの効果を最大限に引き出すことができるでしょう。

また、中央銀行デジタル通貨(CBDC)や統合台帳といった新たな概念が提示されたことは、今後の金融システムを大きく変革する可能性を感じさせます。しかし、同時に、法律や規制、セキュリティ、プライバシーといった課題も浮上し、慎重かつ段階的な取り組みが必要であることを改めて認識させられました。

講演で示された、中央銀行と民間部門の相互作用の重要性は、これからの金融イノベーションを進める上で非常に重要なポイントです。中央銀行は、イノベーションを促進する触媒役として、民間部門の創意工夫を支援し、同時に決済システムの安全性と効率性を確保するための枠組みを整備していく必要があります。

講演を聞いて、決済システムの未来は、技術革新と制度改革、そして中央銀行と民間部門の協調によって形作られるという印象を受けました。今後、様々な主体が連携し、新たな技術を安全かつ効果的に活用することで、より安全で便利、そして革新的な決済システムを実現できることを期待しています。

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