神経細胞の新たな移動メカニズムが解明
近畿大学理工学部の中澤直高講師と、京都大学の見学美根子教授、栗栖純子研究員、野々村恵子教授、安達泰治教授らの研究グループは、シンガポール国立大学や芝浦工業大学と共同で、神経細胞が脳の発生期において移動する際に、周囲の環境に応じて異なる駆動力を使うことを解明しました。
研究の背景と意義
脳は精密な構造を有しており、神経細胞(ニューロン)の正確な配置が脳機能において非常に重要です。ニューロンは特定の層構造を形成する際に、脳内の隙間を長距離移動し、正しく配置されます。しかし、ニューロンの移動に異常があると、滑脳症などの深刻な脳奇形や神経疾患が引き起こされることが知られています。これらの問題に対処するため、研究チームは従来の知見を踏まえて、神経細胞の移動を促進するメカニズムの研究を進めました。
研究成果の詳細
研究者たちは、小脳に存在する小脳顆粒細胞に焦点を当てました。この細胞は脳内の特定の層構造を形成するために移動します。通常、小脳顆粒細胞の移動には、細胞核の前方からニューロンを引っ張る力が重要ですが、他の神経細胞においては、細胞核の後方から圧をかける収縮力が重要です。研究チームは、異なる環境で小脳顆粒細胞の挙動を観察し、細胞核が変形しながら移動する時に特有の駆動力が働くことを発見しました。
彼らは狭小空間中での細胞の移動を観察することで、新たな駆動力が必要であることを示しました。この時、細胞核が大きく変形しなければ通過できない空間では、細胞膜が収縮する力が駆動力となることが分かりました。さらに、狭い経路を通過する場合、機械的刺激を感知する「PIEZO1」という分子が関与し、その機能が重要であることも見出されました。
実験では、PIEZO1遺伝子が欠損したマウスを用いて、小脳顆粒細胞が十分に移動しないことが観察されました。これにより、PIEZO1が細胞の後方からの圧を検知し、ニューロンの移動を助ける役割を果たしていることが明らかになりました。
研究成果の展望
これらの成果は、神経疾患における脳構造の理解を深めると同時に、神経細胞の移動を促進する新たな治療法の開発に貢献する可能性があります。また、今後、神経活動を支援するためのマイクロロボットなどの技術も期待されています。これにより、脳の機能を調整する新たな方法論も確立できるのではないかと考えられます。
本研究は、生命科学の国際的な学術誌「Cell Reports」にも取り上げられており、今後の研究の展開が注目されています。研究チームは引き続き、脳内の細胞の移動メカニズムをさらに探求し、脳機能に関する新たな知見を提供することを目指しています。