次世代メモリデバイスを支える新素材の開発に成功
国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究チームは、次世代の低消費電力メモリデバイスに貢献する新材料を開発しました。新材料は、強誘電体メモリの有力候補である窒化ガリウム(GaN)に金属添加物スカンジウム(Sc)を高濃度で添加したGaScN結晶です。これにより、従来の窒化物材料に比べて、メモリ動作に必要な電圧が約60%も減少する見込みが立っています。
開発の背景と重要性
最近のIoTやAIの普及により、情報機器に組み込まれるデバイスの低消費電力化が求められています。不揮発性メモリとして強誘電体メモリが注目されていますが、特にGaScNは安定した結晶特性と優れた耐熱性を持っているため、その利用が期待されています。しかし、これまでの研究ではGaScNの電圧が高くなる傾向があり、これが利用の障壁となっていました。
このため、GaScN材料の電圧を下げるための研究が進められてきました。研究チームは統計学的手法を用いて作製プロセスを最適化し、Scの濃度を44%から53%まで高めることに成功しました。これにより、分極を反転させるための必要な電界を大幅に低下させることが可能となりました。
新材料の特徴と成果
開発されたGaScN結晶は、分極反転に必要な抗電界が約1.5MV/cmと、従来のGaScNの半分以下という世界最小値を達成しました。このように低い電界強度は、メモリデバイスが求める低消費電力に大いに貢献します。また、残留分極が非常に高いため、メモリの高集積化も実現可能です。さらに、GaScNデバイスは耐久性にも優れており、108回の書き込み動作にも耐えられることが確認されています。
実用化へ向けた今後の展開
この研究は不揮発性メモリの新たな可能性を示唆しています。特に、トンネル接合型強誘電メモリとしての利用が期待されており、その実用化に向けた薄膜化技術も重要です。今後、分極反転のメカニズム解明や材料特性の調整が進められ、より効率的な強誘電体メモリデバイスの実現が目指されます。
この成果は2024年12月2日付で専門誌「APL Materials」にも掲載される予定です。今後の研究が、エコなデバイスの開発にどのように寄与するのか、注目が集まります。