胃がんに対する新たな治療法の可能性
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(以下、NIBIOHN)を中心とした研究チームは、胃がんの治療において新しいアプローチを提案しています。この研究は、内視鏡生検検体から得られたリン酸化シグナルを詳細に解析することを通じて、未治療の胃がん患者におけるがんの特性を明らかにしました。
研究の背景と目的
胃がんは世界中で広く見られる癌の一つです。特に進行した状態での胃がんは、切除不能な場合が多く、患者の生存期間も極めて短いことが知られています。それゆえに、効果的な治療法が求められていますが、有効な分子標的薬の数は限られています。そこで、研究チームは新たな治療法の開発を目指して、リン酸化シグナル解析に注目しました。
研究の成果
今回の研究では、微量の内視鏡生検検体から2万を超えるリン酸化部位を測定し、未治療状態の胃がん患者を3つに分類しました。これにより、患者のがんがどのように進行しているかを理解する手助けとなる情報が得られました。具体的には、がんが細胞周期を制御することに関連するキナーゼ群が活性化しているタイプや、上皮間葉転換(EMT)タイプなど、患者ごとの特性が浮き彫りになりました。
さらに、治療中のがんの進行に伴い、EMTタイプの患者が増加する傾向が観察されました。これは、化学療法やその他の治療法に対する耐性が形成される兆候であり、より悪性度の高いがんへと進化していることを示唆しています。
新たな治療法の提案
特に注目すべきは、EMTタイプの胃がんに対する治療法の提案です。研究チームは、AXLという受容体型チロシンキナーゼがEMTタイプで活性化していることに着目し、その阻害剤とパクリタキセルを組み合わせた治療法が抗腫瘍効果を示すことを確認しました。これにより、従来の治療法に新たな選択肢が加わる可能性があります。
今後の展望
研究の結果により、胃がんの治療に関しては、個々の患者のリン酸化シグナルを詳細に解析することで、がんのタイプや治療に対する反応を理解し、より精密な医療が可能になることが期待されます。今後は、この研究成果を基に、新たな治療法の実用化に向けさらなる検討が進められるでしょう。
この研究は、2024年10月1日に「Cell Reports」に発表され、がん精密医療の進展に向けて重要なステップとなることが期待されています。