新しいがん免疫療法の開発に向けた研究
慶應義塾大学医学部の先端医科学研究所が、がん免疫治療の新たな可能性を切り開きました。本研究の中心となるのは、籠谷勇紀教授と伊藤雄介専任講師を含む研究グループであり、東京大学の太田誠一准教授や愛知県がんセンターの小根山千歳教授との共同研究による成果です。彼らは、免疫細胞を活性化してがんに対抗させるナノ粒子サイズの細胞膜小胞を開発しました。
最近、がん治療の分野では、体内の免疫系を利用した免疫療法の研究が非常に活発です。特に、T細胞を利用した治療が注目されています。これまでに、免疫チェックポイント分子に対する阻害剤や二重特異性抗体など、いくつかの医薬品が開発されていますが、多くの場合、これらの治療法は一時的な効果を示すものの、再発が発生することが多いのが現状です。これは、T細胞の活性化に関与する複数の分子を同時に最適化して作用させることが難しいからです。
本研究では、この問題にアプローチするために、T細胞の活性化に関連する複数の分子を細胞の表面に搭載し、その細胞膜を単離することで、サイズが100-150 nm程度の細胞膜小胞を作成しました。これらの小胞を体内に投与することで、T細胞のがん攻撃機能を高めることに成功しました。この研究成果は、基礎研究において確認されたもので、今後臨床応用が期待されます。
さらに、この研究の結果は、2025年1月27日(米国東部時間)に、米国がん免疫療法学会の専門誌『Journal for ImmunoTherapy of Cancer』に掲載され、多くの研究者や医療関係者の注目を集めています。
がん免疫療法は、これまでのがん治療に比べて副作用が少なく、より個別化された治療が期待できる分野として、多くの期待が寄せられています。細胞膜小胞を用いた本研究のアプローチは、新しい治療法として、がん治療の選択肢を広げる可能性を秘めています。また、今後この技術がどのように臨床現場で応用されていくのか、研究成果の展開にも注目が集まります。
私たちの治療法に対する期待が高まる中、今後の研究成果に期待しつつ、がん治療においてどのような革新が実現されるのかを見守りたいと思います。新たながん治療法の開発が進むことで、一人でも多くの患者が救われることを願っています。