京都大学発スタートアップの活躍
京都大学発のスタートアップ、株式会社エムニは、住友電気工業株式会社と協力し、生成AIを活用した研究開発のフレームワークを構築しました。このプロジェクトでは、論文からの物性値自動抽出ツールと、電子実験ノートへの自動入力システムの2つが開発されました。以下、その詳細について解説します。
論文からの物性値自動抽出ツールの開発
背景
材料科学の領域では、研究者が日々多数の論文を参照し、実験条件や結果から得られた物性値を抽出するために多くの時間を要しています。特に、これは業務負担の大きな要因となっていました。また、物性値の表記は論文ごとに異なるため、単純なキーワード検索では精度の高いデータ抽出が困難です。
アプローチ
新たに開発されたツールでは、特定の物性値に制限を設けず、汎用性を確保しつつ高い精度を求めています。これを実現するために、研究プロジェクトごとにグループを作成し、各物性値の定義や抽出のためのヒントを設定しました。ユーザー負担を低減するために、事前に生成AI(LLM)が各定義のひな形を作成し、これを基にユーザーが修正を行う形態を採用しています。結果はCSVおよびPDF形式で出力され、PDFでは抽出結果とその根拠を視覚的に結び付ける構造になっています。
結果
開発されたシステムは4つのステップで構成されており、グループ設定や結果の確認を段階的に実施可能です。全体としては、物性値の抽出精度は概ね良好であり、一部の難しい項目を除いて高い精度が達成されました。
工夫したポイント
今回のツールは高い汎用性を有し、ユーザー自身が物性値の定義を設定できることで、多様なニーズに対応可能です。また、LLMによる補助機能により、ユーザー側が不十分な入力でも精度を確保しています。
電子実験ノートへの自動入力に関するPoC
背景
製薬業界などの研究開発領域で、電子実験ノートの活用は進んでいますが、特に製造業においては入力負荷の増大が課題となっています。既存のツールだけでは十分なデータ収集が困難であるとされています。
アプローチ
ユーザーが自由記述したエクセルファイルからLLMを通じて情報の抽出・標準化を行い、電子実験ノートに自動入力を行います。この際、単なる情報の抽出だけでなく、特定の計算方法に基づいて新たな値を生み出すことも可能です。結果はデータベースに蓄積され、後からの検索や分析に利用されます。
結果
エクセルデータの単純な抽出では精度100%を達成。さらに、複雑な計算が必要な項目においても80〜100%の高い精度を見せました。汎用性を保ったままさまざまな形式のデータに対応できることが証明されました。
工夫したポイント
Excelデータを適切に処理するため、LLMを用いた前処理を行いました。また、精度改善のための多段階処理を経ることで、複雑な計算への対応力を向上させました。さらに、検証を効率化するため専用アプリケーションが開発され、PDCAサイクルの迅速化が実現されています。
共同開発の意義
住友電気工業株式会社の高桑達哉グループ長は、「製造業におけるLLM技術の利用が今後重要である」との見解を述べており、エムニの柔軟な発想力と実装スピードを高く評価しています。
エムニ代表の下野祐太氏は、「最新のAI技術で業務課題にアプローチできたことを光栄に感じている」とコメント。関西地域の製造業にとってのモデルケースを見せるべく、今後も住友電工との共同開発に力を入れていく意向を示しました。
住友電気工業とエムニの未来
住友電気工業は、電線・ケーブルの開発をはじめとする多様な分野で社会貢献を行っており、新エネルギーの普及や通信技術の高度化、自動車業界への貢献に力を注いでいます。一方で、エムニはAIを駆使したオーダーメイドソリューションを提供し、製造業の未来を切り拓いていく企業です。共に、今後の発展に期待が寄せられています。