高温環境下での植物発芽メカニズムを解明した最新研究の成果

地球温暖化が進む現代において、農業の生産性に深刻な影響を及ぼす問題として「高温ストレス」があります。最近、明治大学の瀬戸義哉准教授が静岡大学の竹内純准教授、中村彰彦教授と共同で発表した研究は、この高温環境下で植物の発芽を調節するタンパク質KAI2に関する新しい知見を提供しています。

研究の背景

ナス科やキャベツ類など、実に多くの農作物が、高温環境下では発芽率が著しく低下します。この現象は、高温ストレスによるアブシシン酸（ABA）の増加が主な要因とされています。そのため、農業技術の向上が求められていますが、特にKAI2が高温環境下での植物発芽にどのように関与しているのか、これまで詳細は不明でした。

KAI2の働きとそのメカニズム

KAI2は、植物ホルモンの一種であるストリゴラクトンの受容体D14の親戚です。過去の研究により、KAI2が高温環境での植物の休眠や発芽の調節に寄与していることが示されました。しかし、KAI2が結合する植物内生リガンド（KL）が特定されていなかったため、その活性化メカニズムが解明されていなかったことが問題でした。

本研究では、KAI2がどのようにリガンドと相互作用し、活性化されるのかを探索しました。具体的には、KAI2に結合する物質dMGerの構造を改変し、KAI2に結合しながらも加水分解されないような構造のdMGerアナログを合成しました。

発見された重要な低分子化合物

研究チームは、合成したdMGerアナログを用いてKAI2との結合特性や植物への効果を詳細に調査しました。その結果、リガンドがKAI2と結合するだけでは活性化しないことが判明。リガンドが加水分解され、KAI2の触媒残基と共有結合を形成することが重要であると判明しました。

期待される新たな農業技術

この研究は、KAI2を通じた植物の高温ストレス応答メカニズムの理解を一歩進め、KLの探索研究に大きな進展をもたらすことが期待されています。今後、KAI2経路を活かした新たな農薬ターゲットの開発や、植物成長調整剤の合理的な設計が可能になるでしょう。

今後の展望

研究結果は、高温発芽阻害の解決に向けた新しい農業技術の創出や、温暖化に適応するための農作物育成法の高度化につながる可能性を秘めています。今後、リガンドの同定が進むことで、KAI2のさらなる活用方法が見込まれ、持続可能な農業に寄与することが期待されています。研究結果は、2025年に国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載される予定です。

この新たな知見が、今後の農業政策や技術革新に寄与することを考えると、農業界における高温ストレス対策が明るい未来を迎える可能性を示唆しています。