生成AIによる治験文書自動化研究の進展とその期待
2024年4月より、株式会社ロゼッタと国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院が共同で取り組む生成AIを用いた治験関連文書の自動作成に関する研究が注目されています。2023年3月24日には、厚生労働省の会見室でその初年度の開発状況が発表されました。本記事では、その内容を詳しくご紹介いたします。
研究の背景と目的
ロゼッタは国内でNo.1のAI翻訳サービスを展開しており、医療分野においてもその技術を駆使して進化を遂げています。国立がん研究センター中央病院との共同研究は、治験文書の質向上と負担軽減を目的にしています。特に、治験総括報告書(CSR)の自動生成に取り組むことで、医療現場のプロセスを革新し、効率化を図る狙いがあります。
生成AIのポテンシャル
治験文書作成の現状と課題
治験においては、大量の文書を作成する必要があります。研究概要や治験実施計画書から始まり、症例報告書、各種手順書、さらには統計解析報告書まで多岐にわたります。これらの作成には多くの時間とコストがかかるため、生成AIによる効率化が強く期待されているのです。
国立がん研究センターの中村健一氏は、「CSRの自動生成には技術的なハードルが低く、編集が容易であることが大きな利点です。これにより、時間とコストを大幅に削減できる可能性があります」と語りました。このアプローチにより、医療に求められる信頼性も確保しつつ、リソースの最適化が進められています。
研究の進捗
発表によると、現段階でシステム自体は完成し、プロンプト設計も約7割に達しています。生成AIを活用することで、これまで外注していた文書作成作業を内製化できる見通しが立っています。自動生成されたCSRの精度評価でも、80%が「ほぼそのまま利用可能」または「微修正で利用可能」とされ、これは従来の作業の一部を内製化できる大きな期待を抱かせます。
生成AIの実用例とその成果
本プロジェクトでは、生成AIの中でも「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という技術を取り入れ、過去の治験文書を参照しながら自動生成を行っています。これにより、推薦文の出力精度が向上し、信頼性も確保されています。ユーザーは生成された文書を簡単に編集でき、AIチャットボットを活用して修正依頼も可能です。
未来の展望と課題
最終的な目標は、治験プロセス全体に生成AIを活用し、迅速かつ効率的な運営を実現することです。現在はCSRの自動生成に着手していますが、将来的には治験実施計画書や患者向けの説明文書、更には論文作成などもAIで支援することが期待されています。これにより、研究者がもっと専門的な業務に集中できる環境を整えることができるでしょう。
ただし、課題も残されています。約18%の部分は依然として大幅な修正が必要であり、生成AIの誤りも見受けられます。これらの課題に対しては、プロンプトエンジニアリングの精度向上や、データセットの増加に努め、さらなる進化を図ることが求められます。
機会を捉えたAIの導入
国立がん研究センターとロゼッタの共同研究は、医療業界における生成AIの可能性を示す重要な一歩です。企業や研究機関が互いに協力しながら、新たな技術を取り入れることで、医療の質向上に繋がることが期待されています。この成果が、他の分野への応用にも広がることを願っています。医療・製薬業界における生成AIの加速を感じながら、未来の医療がどのように進化していくか注目していきましょう。