アルツハイマー病と遺伝的リスクの関連性の探求
新潟大学脳研究所の菊地正隆特任准教授と池内健教授が中心となった研究グループは、フランスのInstitut Pasteur de LilleのJean-Charles Lambert教授と連携し、アルツハイマー病の遺伝的リスクに関する研究を28カ国のデータを用いて行いました。この研究の目的は、ポリジェニックリスクスコア(PRS)という指標を用いて、個々の遺伝的リスクがアルツハイマー病の発症に与える影響を明らかにすることです。
研究の背景とアルツハイマー病の特徴
アルツハイマー病は、最も多く見られる認知症の一種であり、主なリスク因子は加齢です。ただし、特定の遺伝的なバリアントを多く持つ人々は、病気にかかるリスクが高いことが知られています。このため、個人の遺伝的リスクを数値化する方法であるPRSが注目されています。
従来の研究では、主に欧州や日本など選ばれた地域に焦点を当てていましたが、アフリカ、南アメリカ、インドやオーストラリアを含む28カ国を対象にした今回の研究により、より広範な視点からアルツハイマー病のリスクが分析されました。
研究の概要
今回の研究では、アルツハイマー病患者122,840人、健康な高齢者424,689人のデータを収集し、計547,529人を対象にしました。ポリジェニックリスクスコアは、85の遺伝的バリアントに基づいて算出され、これらは以前の大規模研究で同定されたものです。
メタアナリシスによって、すべての祖先集団で健常者に比べアルツハイマー病患者のPRSが高いことが確認されました。面白いことに、アフリカ系アメリカ人ではPRSの効果が比較的低いことも分かり、さらに高いPRSは発症年齢の早さや髄液中のバイオマーカーの変化とも強く関連していることが示されました。
多民族PRSの構築と見解
研究チームは、以前に得られたデータを統合して多民族PRSを構築しましたが、このPRSがアルツハイマー病リスクとの関連において、ヨーロッパ系以外の祖先集団でもその関連は見られることが明らかになりました。今後、非ヨーロッパ系の集団における大規模研究が必要とされる理由がここにあります。
今後の展望
この国際的な共同研究の結果、アルツハイマー病における遺伝的リスクが多様な祖先集団に共通していることが示されたことで、ゲノム情報に基づいた早期診断や個別化医療の実現が期待されます。研究成果は2025年に「Nature Genetics」に掲載され、今後さらなる研究が進められることでしょう。
結論
本研究の成果により、アルツハイマー病の発症リスクに関する理解が深まり、個々の遺伝的特徴に基づいたアプローチが可能となることが期待されています。症状の出現や進行を抑えるための新たな治療法や予防策の開発に寄与することを願っています。