人口動態と経済:少子高齢化がもたらす自然利子率、インフレ、経常収支への影響
人口動態が経済に与える影響:少子高齢化がもたらす自然利子率、インフレ、経常収支への変化
日本銀行のリサーチラボから発表された「人口動態と家計の貯蓄・投資動向」レポートは、少子高齢化が経済に与える影響について、自然利子率、インフレ、経常収支といった重要な経済指標に焦点を当てています。本レポートは、世代重複モデルを用いた分析結果に基づいて、少子高齢化がこれらの指標にどのような影響を与えるのかを詳しく解説しています。
自然利子率への影響:資本深化による下押し圧力
レポートでは、少子高齢化が自然利子率を下押しする可能性が指摘されています。これは、長寿化を見越した貯蓄の増加が資本深化(労働力に対する資本ストックの増加)をもたらし、結果として自然利子率が低下するというメカニズムによるものです。
日本銀行の分析によると、過去40年間における少子高齢化は、自然利子率を100ベーシスポイント以上も押し下げた可能性があることが示唆されました。ただし、今後の自然利子率の動向はモデルの外生変数の想定に依存するため、現時点では断定できません。
インフレへの影響:デフレによる産出量と経済厚生の悪化
少子高齢化は、基調的なインフレ率が低下した場合の経済への負の影響を拡大させる可能性も指摘されています。高齢者は、若中年者に比べて安全性や流動性を重視する傾向があり、その結果、高齢化が進むにつれて経済全体での貨幣保有が増加する傾向が見られます。
レポートでは、マンデル=トービン効果と再分配効果の2つの経路を通じて、基調的なインフレ率の低下が実体経済に影響を及ぼす可能性を分析しています。
マンデル=トービン効果: インフレ率の低下により貨幣の収益率が上昇すると、資産需要が実物資産から貨幣にシフトし、生産活動が縮小する可能性があります。
再分配効果: インフレ率の低下は、貨幣保有が少ない若年者から、多い高齢者への所得移転をもたらす可能性があります。この所得変化は、年齢別に異なる反応を引き起こし、マクロ経済への影響は年齢別の貨幣保有量の分布に依存します。
レポートでは、世代重複モデルを用いたシミュレーションにより、インフレ率が低下した場合、資本ストックが減少し、産出量と経済厚生が悪化する結果が示されました。特に、少子高齢化のもとでは、こうした負の影響が一段と大きくなるとされています。
経常収支への影響:所得収支の拡大
少子高齢化は、国内貯蓄の増加をもたらし、その結果、余剰資本が海外に流出する可能性があります。海外の資本収益率が高い場合は、経常収支が黒字方向に動く可能性があります。
レポートでは、世代重複モデルを用いた分析結果から、少子高齢化により国内の資本収益率に低下圧力が生じ、海外に流出した資本が、所得収支の増加をもたらす可能性が示唆されました。一方、貿易収支は、少子高齢化により国内生産が減少するため、長期的には赤字化する可能性があるとしています。
今後の展望
少子高齢化は、日本だけでなく世界中で共通課題となっています。日本銀行のリサーチラボでは、少子高齢化がもたらす経済への影響を長期的に研究し続ける必要があるとしています。特に、自然利子率など、金融政策運営に重要な含意を持つ変数への影響について、引き続き、内外の研究をフォローしていく必要性が指摘されています。