企業の価格転嫁率が39.4%に低下、背景には厳しい経済状況
2025年7月、株式会社帝国データバンクは全国の2万6,196社を対象にした「価格転嫁」に関する調査を実施し、その結果を発表しました。調査によると、企業がコスト上昇をどの程度販売価格に上乗せできたかを示す価格転嫁率は39.4%となり、前回の調査から1.2ポイント低下しました。これは調査開始以来の最低水準となり、企業の経済的な苦境を示すデータとなっています。
調査の背景と結果
調査は、2025年7月17日から31日まで、インターネットを通じて行われました。有効回答は1万626社で、回答率は40.6%でした。一見して、この数字は企業がコストの上昇を販売価格に転嫁できている割合が低下していることを示しており、特に人件費や物流費など、転嫁が困難なコスト上昇が影響していることが伺えます。
企業の反応と理由
今回の調査結果では、コストの上昇分に対して「多少なりとも価格転嫁できている」と答えた企業は73.7%でしたが、この割合も前回調査から3.3ポイント低下しています。具体的には、「全く価格転嫁できない」と回答した企業は12.5%で、今や8社に1社が全く価格転嫁を行えない実態にあります。このような厳しい状況には様々な理由があり、企業からは「顧客が値上げに敏感で、競合との価格競争が激しいため、値上げを躊躇する」との声が聞かれます。
さらに、価格転嫁ができない要因として、顧客の消費に対する節約志向や選択消費の傾向が強まり、価格を上げることで客足が減ってしまうのではないかという懸念が影響していると言及されています。特に、飲食業や宿泊業など、消費者に近い川下の業種ほどこの傾向が顕著です。
コスト上昇と価格転嫁の実態
原材料費の価格転嫁率は48.2%と比較的高いものの、物流費や人件費、エネルギーコストはそれぞれ約30%台にとどまっています。企業の代表的なコストが転嫁しづらい状況には、根拠が示しにくい費用が多く含まれており、これは企業が顧客に説明をする際の障壁となっています。特に人件費に関しては、定量的な説明が難しいため、企業側も転嫁を諦める声が多く聞かれます。
業種による差異
サプライチェーン別に見ると、卸売業は比較的価格転嫁が進む傾向にある一方、直接消費者に対峙する飲食店や旅館、ホテル業界では引き続き厳しい状況です。例如、「飲食店」では32.3%と転嫁率が低く、対照的に「化学品卸売」や「鉄鋼業」では5割以上の転嫁を実現しています。しかし、これらの業界でも全体として低下傾向が見られ、困難な市場環境が影響していると考えられます。
企業の未来と価格転嫁の必要性
このような背景の中、企業はコスト削減や効率化に努めていますが、エネルギー価格の高止まりや労働力不足が悪化し、自社の努力だけでは限界が近づいているとともに、さらに深刻な状態にある企業も多いと言えます。
今後、企業は価格転嫁の必要性を強く意識し、顧客とのコミュニケーションを図り、理解を得る努力が求められます。そして、政府や団体も価格転嫁が円滑に行えるような制度的な支援を行い、持続的な経済成長を促進する為の施策が急務です。
価格上昇に賃上げが追いつき、企業と消費者が価格転嫁を受け入れられる環境作りが、今後の日本経済の健全な成長には不可欠であると言えるでしょう。