浜名湖の夜を彩る奇跡のショー:地域活性化の成功事例と未来へつなぐ取り組み
かつて木材や織物の一大産地として栄え、スズキやヤマハといった大企業も拠点を置く産業都市・浜松市。しかし、観光面では浜名湖という観光資源を持ちながらも、近年は団体旅行から個人旅行へのシフトに対応しきれず、舘山寺温泉は斜陽化の一途を辿っていました。そんな中、2018年、文化庁によるアーツカウンシルの設立を機に、新たな地域活性化の取り組みが始まりました。
その中心人物は、長年エンターテイメント業界で活躍してきた菱沼妙子さん。音楽関係のアーティスト招聘やイベントプロデュース、歌舞伎の海外公演、韓国ミュージカルの日本招へいなど、幅広い経験を持つ菱沼さんは、浜松市の文化状況調査や市民へのヒアリングを通じて、浜名湖の観光活性化に挑むことになります。
Grandscape浜名湖:湖面に浮かぶ魔法
菱沼さんが手がけたのが、浜名湖を舞台にした幻想的なショー「Grandscape浜名湖」です。中国の西湖と友好協定を結ぶ舘山寺温泉の縁から、西湖の湖上ショーを参考に、観光協会が台船を調達。観光庁の助成事業も獲得し、2020年12月に実証実験、翌年から本格的な公演がスタートしました。
このショーは単なるエンターテイメントにとどまりません。浜松市の歴史や文化、自然を深く理解し、地元住民との協働によって生まれた作品です。遠江地方の豊かな自然と、洪水や火災といった災害を乗り越えてきた歴史、秋葉山の山伏の火伏せの儀式や猪鼻神社の市杵島姫命への祈りをモチーフに、コロナ禍で疲弊した人々に希望と勇気を与える物語が、ダンスや音楽、照明、音響効果によって鮮やかに表現されています。
地域住民との連携と高品質の作品
「Grandscape浜名湖」は、グラミー賞受賞アーティストや人気アニメ「鬼滅の刃」の作曲家、地元浜松出身の若手作曲家など、多彩な才能が集結して制作されました。衣装デザインはダンス界の人気デザイナーが担当し、地元の遠州織物も使用。照明や音響も、周辺施設への配慮をしながらも、最高品質を目指したものです。
成功の要因は、地元住民の強い熱意と、菱沼さんの「自分ごととして変えたい」という姿勢です。その熱意は周りの人を巻き込み、150名を超えるスタッフが約10か月の制作期間を費やし、完成度の高いショーを創り上げました。
ピンチを乗り越え、未来へ
台船の故障というピンチに見舞われた後も、浜松市内の中学校へのアウトリーチ公演を行うなど、活動を継続。若い世代の育成にも力を入れています。菱沼さんは、「若者がプロとして輝き、評価されるプラットフォームを作りたい」という強い思いを持って、地元のプロダンサーを含む大人たちが子どもたちにロールモデルを示すことを目指しています。
ヨコハマ海洋市民大学とGrandscape浜名湖
今回紹介した「Grandscape浜名湖」は、ヨコハマ海洋市民大学が目指す「海を介して人と人が繋がり、未来へつなぐ」という理念と、多くの共通点を持っています。地域課題を自分ごととして捉え、熱意を持って行動する人々、そしてその熱意が周囲を巻き込み、地域を活性化させる力。まさにヨコハマ海洋市民大学が目指す姿が、菱沼さんの活動に凝縮されていると言えます。