シンガポールで進展する量子化学イノベーション
2026年6月24日、シンガポールにおいて、量子コンピューティングソフトウェア企業のClassiqとHatchが、Amazon Web Services(AWS)を利用した量子・古典計算化学の概念実証(PoC)を完了したことが発表されました。このプロジェクトは、分子の結合エネルギーを推定し、小分子が標的タンパク質とどのように相互作用するかを理解するための重要なステップです。
このPoCは、シンガポールの治安機関「Home Team」によるオープンイノベーション課題「Dimension X」の一環として行われました。Hatchは、Classiqの高度な量子ソフトウェアプラットフォームとAWSのハイパフォーマンスコンピューティングを活かし、結合エネルギー計算のためのハイブリッドアプローチを検証しました。その中で、Amazon Braketを量子実行経路として使用しています。
プロジェクトの詳細
このプロジェクトでは、並列化された密度汎関数理論(DFT)計算と、Classiqのプラットフォーム上で実行される変分量子固有値ソルバー(VQE)を組み合わせて、結合エネルギーを計算するパイプラインを構築しました。このワークフローは、量子回路を古典的または量子的なリソースに効率よくルーティングするために設計されており、デバイスの成熟が進むにつれて、量子ハードウェア上での実行が可能になります。
初めに、タンパク質とリガンドの結合ポケット及びリガンドのエネルギーを個別に計算し、最終的にそれらの結果を結合エネルギーの推定に活用します。結合エネルギーは、リガンドがタンパク質活性部位とどれだけ強く相互作用するかを示す重要なデータです。このプロジェクトによって、研究チームはコストのかかる実験を行う前に、有望な分子候補を効率的に選別できる可能性が広がります。
専門家のコメント
ClassiqのCEO、Nir Minerbi氏は、「量子コンピューティングは、実際の業務プロセスや運用ニーズと結びつくことで真価を発揮する」と述べています。また、Hatchのセンター長Mok Shao Hong氏も、「新興の量子技術を駆使し、シンガポールの公共安全分野における現実的な課題解決に貢献している」と語ります。
量子コンピューティングの利用可能性
本プロジェクトでは、Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)を活用して、通常のワークステーションでは扱えないDFT計算を実行しました。量子コンポーネントにおいては、化学的に活性なフラグメントを量子的に処理し、周囲のタンパク質環境をDFT法で取り扱う「フラグメント環境埋め込みアプローチ」が利用されています。これにより、最大100個の原子からなるシステムが、大量の電子的影響を維持しつつ量子的な問題を解決するための状態に保たれます。
Classiqのアプローチ
Classiqのソフトウェアプラットフォームは、研究者が量子問題を高い抽象度で記述できるよう支援します。このプラットフォームは、自動的に最適化された量子回路を合成し、VQEワークフローを効率的に実行することで、手動のプログラミングを必要としません。
最終的には、今回のプロジェクトは、量子化学のさらなる実用化に向けた方向性を示すものとされます。古典的な計算インフラと量子計算技術を融合させることにより、より高度な量子アルゴリズムの実現へとつながる可能性が高まります。これは、将来的には現在のVQEを超える新たな拡張に対応できるモジュラーアーキテクチャを構築する試みの一例と言えるでしょう。
HatchとClassiqの未来への展望
Hatchは、公共安全に関する実際の課題解決を目指し、国際的なディープテックネットワークの構築に取り組んでいます。これに対し、Classiqは量子アプリケーションへのアクセスを簡素化し、迅速なアルゴリズム開発のサポートを進めています。中でも、グローバルなテクノロジー企業との連携によって、社会的に重要な課題に対して新たな技術の可能性を探求することが期待されています。これからのシンガポールが、量子化学の最前線として進化し続けることは間違いありません。