損害保険業界の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議:報告書案が示す業界改革の道筋
損害保険業界改革に向けた提言:顧客本位と健全な競争環境の実現を目指して
金融庁は、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」の第4回議事録を公開した。これは、昨年発覚したビッグモーターによる保険金不正請求問題を受け、業界全体の構造的な課題を洗い出し、顧客本位の業務体制の構築と健全な競争環境の実現に向けて具体的な改善策を検討するため、昨年12月から開催されている会議だ。
第4回議事録では、これまで3回の会議で議論された内容を踏まえ、報告書案が示された。報告書案は、顧客本位の業務の徹底、健全な競争環境の実現、その他の論点、そして今後の展望を盛り込んだ内容となっている。
顧客本位の業務の徹底:代理店に対する指導・監督強化と手数料ポイント制度の改革
報告書案は、顧客本位の業務を徹底するために、保険会社による代理店に対する指導・監督を強化すべきだと主張している。特に問題視されているのは、大規模代理店との関係において、保険会社が適切な指導を行うことができず、代理店の品質向上が遅れている点だ。
具体的な改善策として、報告書案は以下を挙げている。
第三者評価の導入: 大規模代理店等に対して有効な機能を発揮する第三者評価の枠組みを検討すること。評価基準や項目は、代理店等の関係者も含めて十分に検討する必要がある。
代理店手数料ポイント制度の改革: 業務品質を重視するインセンティブを設け、消費者からも保険代理店の業務品質が確認できるような仕組みを検討する。具体的には、業務品質評価割合の考え方を開示することや、大規模代理店については手数料総額等の開示を行うことを検討する。
過度の便宜供与等の制限: 顧客の適切な商品選択を阻害するような便宜供与を解消するための社内規程の策定等、実効的な体制を整備する。損保協会においても、ガイドラインの策定や各社のフォローアップ、通報窓口の設置などを行う。
出向等の適正化: 自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するような出向等を解消し、保険代理店としての自立に向けた動きを阻害するものを解消する。
入庫紹介の適正化: 顧客が自動車修理工場を選択できることに関する明確な伝達、複数社の紹介、紹介理由の説明、自動車修理工場の業務の適切性や品質の定期的な検証、顧客の意見等も踏まえた入庫紹介の適切性を確認するための体制を整備する。
健全な競争環境の実現:共同保険の慣行見直し、政策保有株式の縮減など
報告書案は、健全な競争環境の実現に向けて、共同保険のビジネス慣行の適正化、政策保有株式の縮減、損害保険会社における態勢の確保、企業内代理店のあり方の見直しなどを提言している。
具体的な改善策として、報告書案は以下を挙げている。
共同保険のビジネス慣行の適正化: 営業担当者間で情報を交換しやすく、低い保険料を提示した幹事会社に他の損害保険会社が保険料を合わせるといった慣行を見直す。
政策保有株式の縮減: 適正な競争環境を阻害するような政策保有株式の保有や便宜供与は見直していく必要がある。
損害保険会社における態勢の確保: 独占禁止法に関する教育等を強化し、第2線、第3線の牽制機能を強化する。ビジネスモデル・経営戦略とコンプライアンス・リスクやコンダクト・リスクを含めあらゆるリスクについて幅広く検討する。
企業内代理店のあり方の見直し: 企業内代理店の立場を明確化し、情報共有に関する適切なルールを策定する。企業内代理店の業務代行等は解消し、損害保険会社が適切な指導等を行う体制を整備する。
その他論点:特別利益の提供の禁止、リスクマネジメント能力の向上など
報告書案は、顧客本位と健全な競争環境の実現に加えて、特別利益の提供の禁止、個人の保険契約者に対するリスクマネジメントのインセンティブ付け、企業のリスクマネジメント意識の向上についても触れている。
これらの論点について、報告書案は以下のような改善策を検討すべきだと主張している。
特別利益の提供の禁止: 保険加入を条件に車両価格を値引くなどの行為を禁止する。
個人の保険契約者に対するリスクマネジメントのインセンティブ付け: 事故による損害額の大きさにかかわらず等級が下がるという業界ルールを見直し、少額事項であれば免責とする選択肢を提示する。
企業のリスクマネジメント意識の向上: 企業による主体的なリスクマネジメントの重要性を高め、保険の活用に当たっては、自社のリスクを正確に把握した上で、事業の変化に応じて保険内容を見直すことを促す。
今後の展望:業界全体の自律的な取組と金融庁の監督強化
報告書案は、これらの課題に対する具体的な解決策を提示するとともに、業界全体が自律的に取組むこと、そして金融庁が監督を強化していくことの必要性を訴えている。
業界全体が顧客本位を重視し、健全な競争環境を整備することで、国民からの信頼を回復し、保険市場全体の持続的な発展につなげることが期待されている。
損害保険業界改革に向けた報告書案:新たな時代の保険市場を創造する可能性
金融庁が開催した「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」の報告書案は、ビッグモーター問題で明らかになった損害保険業界の構造的な問題点に対する具体的な改善策を提示した。顧客本位と健全な競争環境の実現という目標を達成するため、代理店の指導・監督強化、手数料ポイント制度の改革、共同保険の慣行見直し、リスクマネジメント能力の向上など、多岐にわたる施策が盛り込まれている。
この報告書案は、単なる問題点の指摘にとどまらず、業界全体が積極的に取り組むべき具体的な道筋を示している点が評価できる。特に、第三者評価の導入や手数料の開示など、市場の透明性を高め、顧客がより良い選択ができるようにするための具体的な提案は、今後の業界改革の重要な指針となるだろう。
しかし、報告書案の実行には多くの課題も存在する。
代理店の反発: 従来の慣行や利益構造に変化を迫る施策に対しては、代理店からの反発は避けられないだろう。
業界内の足並みの揃い方: 業界全体が足並みを揃えて改革を進めるためには、各社の利害調整や合意形成が不可欠となる。
* 金融庁の監督強化: 金融庁は、監督を強化すると同時に、業界の自律的な改革を促すための適切なバランスを保つ必要がある。
これらの課題を克服し、報告書案に盛り込まれた施策を効果的に実行していくためには、業界全体、そして金融庁がそれぞれの責任を果たし、連携していくことが重要だ。
報告書案の議論を通じて、損害保険業界は新たな時代の保険市場を創造する可能性を秘めている。顧客本位と健全な競争環境の実現に向けた取り組みが、保険業界の未来を大きく左右することになるだろう。