新たな核融合エネルギーの時代へ
静岡大学理学部の大矢恭久准教授が率いる研究グループが、プラズマ駆動透過装置(SUMPPU)を用いて世界初の水素同位体プラズマ駆動透過実験を実施しました。この実験では、タングステン(W)とタングステン―レニウム(Re)合金を用いた試料において、水素同位体の透過とそれに伴う挙動に関わる重要な物理的特性が明らかにされました。研究の成果は、2026年5月30日に国際学術雑誌「Fusion Engineering and Design」に掲載され、広く注目されています。
研究の背景と目的
核融合は次世代のクリーンエネルギー源として期待されており、特に重水素(D)とトリチウム(T)が重要な役割を果たします。この反応で得られるエネルギーは、非常に高温のプラズマ状態で維持される必要があります。そのため、プラズマ対向材には高融点かつ低スパッタ率の特性を持つタングステンが有力視されています。
運転中のタングステンは、高エネルギーのD・T、さらにはD-T反応に伴って生成される中性子に曝されます。核融合炉実現に向けて、プラズマを長時間安定して維持し、貴重なトリチウムを厳密に管理することが必要です。そのためには、水素同位体の透過挙動を正確に理解する必要がありますが、中性子照射を受けたタングステンでは一部がレニウムへ変化し、照射欠陥が導入されるため、この影響を評価することが不可欠です。
ただし、中性子照射を受けた材料は放射化されており、取り扱える施設は非常に限られています。このような中で静岡大学は、SUMPPUを利用して中性子照射試料に関するプラズマ透過実験を世界で初めて行いました。
実験の進行と結果
研究グループは、WおよびW-10%Re合金を試料として用い、イオン照射研究施設(TIARA)でFe²⁺イオン照射を行い、その後試料をSUMPPUに導入してDプラズマ照射の実験を実施しました。その結果、W-10%Re合金はWと比較して透過フラックスが増加し、さらには再結合定数もWより小さいことが判明しました。この低下は、表面からのD放出を抑制し、試料内のD濃度を高める要因となりました。
また、Reの添加は照射欠陥の生成を抑制し、水素同位体の滞留量を大幅に減少させることが分かりました。これらの結果は、再結合定数を減少させ、照射欠陥を抑えることで、Dの滞留を効率的に管理できることを示しています。
今後の展望
本研究での知見は、照射環境を考慮したW-Re中の水素同位体移行のダイナミクスを深く理解する的確なデータを提供し、核融合炉材料開発において基盤データとしての重要性を持つことになります。さらに、これにより核融合技術が一歩前進することが期待されています。
論文情報
本研究成果は、以下の情報で発表されました。
この成果は、静岡大学における先進的な研究の一端を成し、今後のエネルギー政策や技術革新において大きな影響を及ぼすことが期待されています。