QunaSysが量子創薬プロジェクト「QuEnAIS」を始動
2025年8月8日、コペンハーゲンに拠点を置く量子コンピュータ向けアルゴリズム開発のリーダー企業QunaSysが、深層学習に基づいた創薬支援を行うCortex Discovery及びハイブリッドHPC/量子計算基盤を構築するFraunhofer Institute for Industrial Mathematics(ITWM)と連携し、国際共同プロジェクト「QuEnAIS(Quantum-Enhanced AI Synthesizer)」を開始することを発表しました。このプロジェクトは、EUREKA Applied Quantum Callにも採択されており、創薬の革新をもたらす新たな計算基盤の設計と構築を目指しています。
プロジェクトの概要
「QuEnAIS」プロジェクトでは、以下の3つの主要技術を融合させた創薬支援プラットフォームが構築されます。
1.
量子化学計算: 応用された薬とターゲット間の結合親和性を高精度で予測する量子計算用のスコアリング関数。
2.
AI技術: 膨大な化学空間を探索するための、グラフトランスフォーマー型の分子構造自動生成AIモデル。
3.
高性能計算環境との連携: 量子アルゴリズムとHPCインフラ間のシームレスな統合を図るミドルウェア。
これらの技術によって、従来の創薬プロセスにおけるボトルネックであった電子状態計算や分子の認識工程を劇的に効率化し、高精度化を実現することを目指しています。
QunaSysの目指す未来
QunaSys EuropeのCEOであるErik Stangerup氏は、「今回の助成採択によって当社の量子技術が創薬分野にも貢献できる可能性が認識されたと感じています。CortexおよびFraunhoferとのパートナーシップにより、異なる領域での革新を実現できることを期待しています。」とコメントしています。
量子化学計算の限界を超えて
従来の古典的創薬手法においては、分子間相互作用の精密な予測や化学反応の再現性に課題が多く、分子動力学(MD)が化学反応性を適切に表現できていない等の問題がありました。また、量子力学アプローチでは大規模系への適用が困難でした。「QuEnAIS」プロジェクトでは、量子コンピュータ特有の性能を最大限に活用し、反応メカニズムや薬物とタンパク質の相互作用の高精度モデリングを目指します。特に、量子古典ハイブリッドアプローチ(QM/MM)の導入により、生体分子や薬剤候補を対象にしたシミュレーションが進められます。
グローバルな協力
本プロジェクトには、次の機関がそれぞれの専門技術を生かして参加します。
- - QunaSys: 量子化学計算のアルゴリズム開発、特に量子位相推定(QPE)やテンソルハイパー収縮(THC)を担当。
- - Cortex Discovery: 創薬前臨床フェーズに特化した深層学習技術、グラフニューラルネットワーク(GNN)による新薬設計を行います。
- - Fraunhofer ITWM HPC部門: HPCと量子計算の統合を担当し、QM/MM法の実装と大規模被験者ワークフローの最適化を目指します。
このように、量子化学計算やAI、高性能計算技術の統合を通じて、大きな社会的意義を有する課題に対する革新的な解決策を提供することが期待されています。
プロジェクトの基本情報
- - プロジェクト名: QuEnAIS(Quantum-Enhanced AI Synthesizer for Drug Discovery)
- - 助成機関: デンマーク・イノベーション基金、ドイツ連邦教育研究省(BMBF)
- - 参加機関: QunaSys、Cortex Discovery、Fraunhofer ITWM HPC部門
- - 期間: 2025年8月〜2027年7月
各社の紹介
QunaSys
QunaSysは、量子化学や材料科学などの分野における応用を中心に、量子アルゴリズムの研究開発を行っています。また、量子ソフトウェアの開発にも力を入れており、産学官の協力を通じて量子コンピュータの実用化を加速しています。
Website:
QunaSys
LinkedIn:
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Cortex Discovery
Cortex Discoveryは、創薬の前臨床フェーズに特化した深層学習技術を提供するドイツの新進企業です。AI技術による高精度な分子予測と設計を行うことで、創薬の効率を大幅に向上させることを目指しています。
Fraunhofer ITWM HPC部門
Fraunhofer ITWMのHPC部門は、量子化学や機械学習の分野においてHPC/量子計算の統合ワークフローを開発しています。エネルギー効率の高い計算手法を確立し、産業界への実装を進めています。
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