新潟大学が開発した口腔がんの3次元モデル
新潟大学の歯学部で行われた新たな研究によって、口腔がんの理解が大きく進展しました。泉健次教授と相澤有香大学院生を中心とした研究チームは、患者由来の細胞を用いて4種類の細胞を共培養した口腔がんの3次元(3D)モデルを成功裏に開発しました。このモデルは、生体内でのがん組織の構造的特性を忠実に再現しており、医療現場での応用が期待されています。
研究成果のポイント
この新たに開発されたモデルは、口腔がんに関連する細胞の複雑な相互作用を詳細に評価できる点が特徴です。具体的には、がん細胞層の周囲に正常な口腔粘膜が接するように設計されており、その結果、患者に即した治療効果や副作用の評価が同時に可能となります。この3Dモデルは、気相液相培養法を用いて作成されており、通常の培養法では再現できない湿潤環境を模倣しています。
研究の背景
口腔がんは外科的治療が一般的ですが、高齢化社会において、切除手術に耐えられない患者が増加しています。そのため、放射線療法や化学療法を用いた機能温存療法が選択されることが多くなっています。しかし、がん治療に伴う副作用としての口内炎の発症が懸念されており、これを評価するための有効なモデルが必要とされていました。従来の2次元培養では、ヒト組織の複雑な環境を再現しきれないため、3D培養が注目されています。特に、腫瘍微小環境の再現が求められていました。
開発されたモデルの詳細
この3Dモデルは、4種類の異なる細胞を共培養し、口腔がん部と正常口腔粘膜の関係性を再現しています。具体的には、口腔がん関連線維芽細胞と正常粘膜線維芽細胞が互いに作用し合い、その上にがん細胞と上皮細胞が配置されています。これにより、口腔がんと正常組織の相互作用を詳細に解析することが可能です。
研究チームは、発展したカルチャーインサートを利用して、各細胞の位置関係を明確にし、13日の培養期間でモデルを完成させました。このプロセスを通じて、腫瘍微小環境の特徴を忠実に再現することができました。
研究の成果と今後の展開
このモデルに対し、重粒子線を用いたがん放射線治療を行い、がん細胞に対する影響と副作用を同時に評価しました。その結果、治療効果や副作用を詳しく観察できることが確認され、患者に最適な治療法の開発に貢献する可能性が期待されています。
個別化医療の実現に向け、本研究ではさらに正常口腔粘膜上皮細胞やがん細胞を患者由来に置き換えたモデルを作成する計画も進行中です。このような取り組みを通じて、未来の口腔がん治療における新たな展開が期されています。
本研究は、様々な研究助成金を受けており、2024年に「Biomedicines」という学術誌に掲載されることが決まっています。これにより、広い範囲での応用が期待されます。
お問い合わせ
この研究に関する詳細やモデルに関する興味については、新潟大学大学院医歯学総合研究科の泉健次教授にお問い合わせください。