ウェアラブルIoTの未来を変える切り紙型熱電発電デバイス
近年、IoT (Internet of Things) 技術が急速に進展する中で、世の中には無数のデバイスが私たちの日常に溶け込んでいます。これらのデバイスが持続的に機能するためには、バッテリーの交換や充電の手間が避けられない課題でした。しかし、早稲田大学の教授、岩瀬英治氏と寺嶋真伍氏の研究チームが考案した切り紙型熱電発電デバイスが、この問題に立ち向かう新たなソリューションを提供する可能性を秘めています。
切り紙の技術を活かした新しい発電デバイス
提案されたデバイスは、薄いフィルム基板に切り込みを入れ、立体的に展開させる「ポップアップ切り紙構造」を利用しています。これにより、人体などの曲面熱源にしっかりと貼り付けることができ、曲がった形状を維持しながらも非常に高い発電性能を発揮します。この新しい構造により、今まで抱えていたフレキシブル性能と発電性能の両立が現実のものとなりました。
実験において、このデバイスは曲率半径0.1mmという微細な屈曲変形や、1.7倍に伸ばすことができる延伸変形を実現。また、熱電素子の温度差を活用することで、平面状態よりも高い出力を得ることが可能です。これにより、利用可能な熱エネルギーを最大限に活用し、従来の熱電発電デバイスの性能を凌駕しています。
医療とウェアラブル機器への応用の可能性
このデバイスの特筆すべき点は、人体に貼り付けることができるため、体温と周囲の空気との温度差を利用して発電を行うことができる点です。実際にヒトの体表にこの装置を貼り付け、体温から無線送信が可能であることを確認しました。これにより、血圧や体温などの健康状態をリアルタイムでモニタリングするウェアラブルデバイスとしての利用が期待されています。これまでは、バッテリーが必要で交換が手間であったため、身につけることが難しかった甲高い健康管理デバイスが、今後は自立した電源を持つことになります。
さらに、このデバイスは災害時の電源確保にも貢献する可能性があります。普段は身近な熱源から電力を得ることができるため、停電時や緊急時にも利用できるのです。この点は、特に電力インフラが整っていない地域や避難所での通信手段の確保に重要です。
社会へのインパクトと今後の展望
研究結果は、国際的な学術誌「npj Flexible Electronics」に掲載され、2025年10月21日に公表されました。この研究がもたらす社会的影響は非常に大きく、エネルギー自立型のIoT社会やウェアラブルヘルスケアの推進に寄与することが期待されます。
切り紙技術を用いたこの新しい熱電発電デバイスは、医療と環境技術の融合を促進し、これまで以上の応用範囲が期待されます。さらに、さまざまな熱電材料への展開も可能であり、商業化の展望もあります。これまでアートや一部の機構設計に限られていた切り紙の技術が、エネルギーデバイスに応用されることで、まったく新しい分野の創造が期待されるのです。この革新技術が今後、私たちの生活にどのような影響を与えるのか、目が離せません。