市川友章個展『分水嶺』が新宿で開催
2025年4月19日から5月17日にかけて、東京・新宿の√K Contemporaryで市川友章の個展『分水嶺』が開催される。これは昨年末、神奈川県民ホールギャラリーで行われた企画展「眠れよい子よよい子の眠る/ところ」の出展作品をはじめ、絵画や木彫の新作も加わる貴重な機会となる。
市川友章は、2011年に発生した東日本大震災を契機に「怪人シリーズ」を創作し始めた。彼の作品には、人間の体にモンスターの頭を持つ異様なキャラクターたちが描かれ、日常生活を生きるその姿にはどこか懐かしさや親しみが感じられる。この「怪人」たちは、クラシカルな西洋絵画の技法で表現されながらも、私たちに何を語りかけているのかを考えさせられる。
私たちの身の回りでは、日常生活が当然のこととされている。しかし、社会の変動や災害、戦争が起こる中で、「人間」とは一体何かを考えるタイミングが訪れる。市川は震災を目の当たりにし、自身が特撮映画に投げ出されたかのように感じたという。そこには、幼少期から見ていたヒーローと怪人の対決が脳裏に浮かび、大人になるにつれて切り離してた世界が再びよみがえる。しかし、現実にはヒーローはおらず、ただ右往左往する人々の本能が見え隠れする。それにより、「人間」という存在が仮面をかぶったモンスターのように映る瞬間がある。
市川はこれらの怪人を通じて、自らの問いを絵に表現してきた。彼の作品では、怪人たちは特撮映画の中で人間を襲う存在ではなく、日常の一部として表現される。可愛らしさや親しみ、そして異様さを併せ持つ彼らは、日本の「キャラ」文化の一翼を担い、現代社会に生きる私たちの孤独や悲哀といった内面的な要素を感じさせる。
今、世界中で頓挫し続ける紛争や災害があり、日本も南海トラフ巨大地震の脅威に直面している。このような時代の中、過去の災害や人為的な事故と向き合い、それらから何を学び、どのように人間の理性と本能を育むべきかを考えさせられる。
市川の作品群が、私たちに「人間」とは何か、そして未来へ向けて何ができるのかを再考する機会となることを願う。
アーティストステートメント
市川は日常生活の中で共有されている常識や前提について考察している。他者との認識の違いに気付く時、私たちはその人の真の姿を垣間見ることができる。彼は「分水嶺」という展覧会のタイトルに様々な意味を込めている。水の流れや人の思考の分かれ目を示し、個々の認識には多様な視点が存在することを示唆している。
最近の社会情勢では、基盤が揺らぎ、これまでの考え方や対策では太刀打ちできない問題が増えている。市川は私たちが今まさに分水嶺にいると感じている。様々な人々の異なる思考を統合し、日常を形作るこの社会に感嘆しつつも、根本的な見直しが必要な時代にいることを警告している。
出展作品
- - 《怪人遠足(国会議事堂)》油彩、キャンバス、F100号(130.3×162cm)、2024
- - 《怪人授業》油彩、キャンバス、F20号(60.6 × 72.7cm)、2024
- - 《カゴメカゴメ(アサリーマン)》油彩、キャンバス、F20号(72.7×60.6cm)、2023
- - 《シュミラークル(アサリーマン)》油彩、キャンバス、F40号(80.3×100cm)、2024
- - 《クリコ》油彩、キャンバス、F20号(72.7×60.6cm)、2024
- - 《クリコ》アクリル、木、23×8×5.5cm、2023
- - 《イカ星人》アクリル、木、30×12.5×9cm、2023
アーティスト紹介
市川友章(Tomoaki Ichikawa)は1977年に千葉県で生まれ、東京藝術大学の油画専攻を卒業後、様々なグループ展で怪人をテーマにした作品を発表している。彼の作品は多岐に渡り、怪談絵本の挿絵なども手掛けており、その独自の視点から生まれる作品には深いメッセージ性が感じられる。
開催概要
- - タイトル:市川友章個展『分水嶺』
- - 会期:2025年4月19日(土)~5月17日(土)(日・月休廊)
- - 会場:√K Contemporary
- - 住所:東京都新宿区南町6
- - TEL:03-6280-8808
- - 協力:Japan Art Inheritance Association
- - 企画展HP:個展ウェブサイト
展覧会期間中にはゲストを迎えたトークイベントも予定されている。詳細は公式サイトやSNSで発表される予定だ。これからの動向に期待が高まる。