本研究は、東京理科大学の研究チームが行った革新的な実験です。エバネッセント円偏光を使用して、ナノ光ファイバー上でのキラルなナノ粒子の選択的輸送に成功したとのことです。この技術は、非接触での光学的分離を実現するもので、薬物などのキラル分子を光で分離する未来への扉を開くものと言えます。
今回の実験は、Mark Sadgrove教授らの研究グループによって実施され、複数の大学の研究者が協力して進められました。伝搬させた2つの光が非キラル力成分を相殺することに成功し、これにより、純粋なキラル光圧に基づいてナノ粒子の輸送方向を自由に制御できることが示されました。
特に注目すべきは、この新しい手法がサイズや形状が異なる粒子の集団でも有効であった点です。これにより、将来的には医薬品製造プロセスの効率を向上させる可能性があり、一方のエナンチオマーだけが効果をもたらし、もう一方が副作用を引き起こす薬物の分離も容易になるとされています。
エナンチオマーは、鏡像関係にある物質で、彼らの化学的性質は同一でも生体内での振る舞いが異なることがあります。このため、製造において両者を確実に分離する技術が求められてきました。光圧を利用した非接触型の技術開発が進められてきたものの、ナノサイズの粒子における実証は難しく、これまではごく限られた成果しか報告されていませんでした。
しかし新しい研究では、ナノ光ファイバーの表面から撒き上がるエバネッセント光を活用し、ナノ粒子の運動がファイバーの軸方向に制限されることで効果的に光圧の影響を利用しています。ここでのキーワードは、光の掌性を切り替えることでナノ粒子の輸送速度を変化させることができる点です。測定したデータでは、右円偏光で471 μm/sあった移動速度が、左円偏光に切り替えることで297 µm/sに減少し、再びRCPに戻すと609 µm/sに回復することが確認されています。
また、対向伝搬モードを利用することで、ナノ粒子を光によって移動させる際に、非キラル成分を打ち消し、キラリティに依存する成分を選択的に作用させることも可能であることが分かりました。この研究成果は、光の偏光を切り替えつつ、ナノ粒子をファイバー上で前後に選択的に輸送することができる可能性を示しており、今後のキラル分子の選別技術における重要なステップと考えられます。
この成果は、2026年4月16日に国際学術誌「Nature Communications」に発表されたもので、研究チームは今後エナンチオ分離技術の発展に期待を寄せています。創薬や化学合成におけるキラル分子分離の新しい道が開かれようとしています。研究は日本学術振興会の科研費によって支援されました。