サステナビリティ情報開示の要点と実践:企業は長期戦略に基づいたマテリアリティの絞り込みを
近年、サステナビリティへの関心は高まり続けています。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、2023年6月にサステナビリティ関連財務情報開示の基準を策定し、2024年4月には自然資本と人的資本に関する情報開示の研究プロジェクトを開始しました。
しかし、企業側からは、新たなテーマの増加や既存テーマに対する新たな要請など、対応の負担が増加しているという声も聞かれます。
三菱総合研究所(MRI)は、こうした状況を受け、企業がサステナビリティ情報開示を効果的に行うための提言を発表しました。特に、上場企業における複数テーマにわたる開示実務担当者を対象に、開示対応の考え方と方策を示しています。
MRIの提言では、気候変動、自然資本、人的資本・人権の3テーマを重点的に取り上げています。これらは、日本を含む先進国の多くの企業にとって、経営上の重要課題となりやすいテーマです。
提言では、以下の3点を強調しています。
1. 長期戦略に基づいたマテリアリティの絞り込み
企業は、サステナビリティ関連の課題に対して、単に要求される開示に都度対応するのではなく、中長期的な事業環境の変化を踏まえ、自社が目指す未来像を明確化することが重要です。そして、その未来像を実現するために、自社が取り組むべき重要な課題、つまりマテリアリティを絞り込み、社会価値の創出と長期的な企業価値の向上を両立させる必要があります。
2. サステナビリティ課題の背景理解とステークホルダーとの対話
絞り込んだマテリアリティに対しては、その課題がなぜ重視されるようになったのか、その背景や経緯を理解し、開示内容を高度化することが求められます。単にフレームワークに従ってチェックボックスを埋めるような開示では、十分な意味合いを伝えることはできません。
企業は、自社の価値創造ストーリーとの関連性、サステナビリティ課題が重視された背景や近年の注目点、ステークホルダーとの対話などを踏まえ、開示資料を継続的にブラッシュアップしていく必要があります。
3. 市民の参画を通じたサステナビリティの社会への組み込み
企業がサステナビリティに関する取り組みを進めても、その取り組みが製品・サービスの価格に転嫁されなければ、企業の価値向上にはつながりません。サステナビリティを価値として社会に浸透させるためには、企業単独ではなく、業界や政府など、多くのステークホルダーが対話を重ねることが重要です。
特に、日本においては、市民へのエンゲージメントを高める取り組みが重要となります。地域や産業を超えて、さまざまな主体が市民と連携することで、サステナビリティが社会に根付いていくと考えられます。
MRIの提言は、企業がサステナビリティ経営を本格的に推進していくための重要な指針となるでしょう。