全納税者に確定申告を義務付けるという新たな政策、通称「確定申告の全体化」が、河野太郎デジタル相によって提案されました。この施策は、年末調整を廃止してすべての納税者が確定申告を行うという内容です。一見すると、納税意識の向上や支援が必要な人への迅速なサポートが期待できるように思えます。しかし、実際にはこの変更が個々の納税者や企業にどのような影響を及ぼすのかという点は、懸念が広がっているといえます。
今回の調査は、税理士の転職サービスを展開する株式会社人材ドラフトが行ったものであり、会計業界に従事する139人を対象に実施されました。その結果、84%の回答者が「確定申告を忘れることで控除が受けられず、税負担が増加するケースが多発する」と考えていることが分かりました。
確定申告は、自らが納税額を計算し、控除を正しく適用するための手続きを行う必要があります。普段から税務に不慣れな多くの会社員にとって、これが新たな負担となり、大きな問題になり得るのです。特に基礎控除や配偶者控除など、適用されないことによって思わぬ税額が発生することが考えられます。再び、税務に詳しくない層への支援策は十分に整備されているのかどうか、今後の課題となりそうです。
さらに、調査では「全納税者の確定申告化」の実施によって企業経理部門の業務負荷が高まり、混乱が生じると72%が予想しています。企業側の受け入れ体制やプロセスが整備されていない場合、混乱が生まれることは明白です。この背景から、本政策を実施するべきだと考える人は36%にとどまり、会計業界内でも慎重な姿勢が見られます。
もしこの施策を実施する場合は、十分な移行期間を設けたり、企業の社員に対する教育活動を強化したりする必要があるという声が多く上がっています。また、確定申告が未完了の場合に自動通知を行うなど、実行支援の仕組みを整える必要性も指摘されています。
調査の結果からは、全納税者が確定申告を行うことで、税務知識の向上や納税意識の改善が期待される一方で、確定申告を行えないことによる不利益が発生するリスクが浮き彫りになりました。このように、政策運用にあたっては参加者へのきめ細かいケアが求められます。
人材ドラフトは、税理士や会計士へのキャリア支援を行うだけでなく、税務会計領域における「あるべき姿」を議論し、業界全体の改善に向けた取り組みを続けています。将来的には、すべての納税者が適切な確定申告を行い、税務に対する理解が深まる社会を目指すことが求められています。成熟した税制運用の実現に向け、今後の動向に注目が集まるでしょう。