研究概要
慶應義塾大学の研究チームは、腸上皮バリアの破綻がIgA腎症の発症に関与している可能性を新たなマウスモデルで実証しました。この研究成果は、指定難病とされるIgA腎症の原因解明へ向けた大きな一歩と位置づけられています。
腸上皮バリアとリーキーガット
腸管内でのバリア機能は、粘液の分泌や抗菌ペプチドの生成、さらにはIgA抗体の産生によって保たれています。この機能が損なわれると、「リーキーガット」と呼ばれる状態が生じ、腸内の物質が体内に不適切に侵入する可能性が高まります。リーキーガットは多くの疾患と関連しているとされていましたが、その詳細なメカニズムは長らく不明でした。
実験の詳細
研究チームは、腸上皮細胞でのタンパク質輸送に関与するAP-1B複合体を欠損させたマウスを用いて研究を行いました。その結果、これらのマウスにリーキーガットの特徴が確認されました。加えて、血中のIgA量が有意に増加し、IgA腎症の典型的な症状であるIgAの腎糸球体への沈着、および糖鎖修飾の異常も観察されました。
また、腸上皮バリアが破壊された状態では腸内細菌叢の異常も確認されました。この異常は、抗生物質の投与によりIgAの産生や糖鎖修飾の改善につながり、腎糸球体へのIgA沈着の抑制が見られることも判明しました。
研究の意義と展望
本研究により、リーキーガットがIgA腎症を引き起こすメカニズムが初めて実験的に裏付けられました。さらに、腸内細菌の調整がIgA腎症の治療に役立つ可能性が示唆されました。
新しい治療法の確立に向けて、さらなる研究が期待されます。所見は2024年7月25日、国際学術誌『eBioMedicine』に掲載されています。
今後、この研究成果がIgA腎症の治療法や予防法の確立にどのように貢献していくのか注目されるところです。また、関連する研究や臨床試験が進むことで、患者に対するより良い治療戦略が提供されることが期待されています。