近年、海洋環境保護の重要性が増している中、海洋技術分野において新たな国際標準が発表されました。それは、船底防汚塗料に特化した国際規格「ISO 21716-4:2025」で、この規格の発行により、船舶が直面するさまざまな環境問題に対処するための科学的な基盤が提供されることになります。
この新しい規格は、国際標準化機構(ISO)の船舶及び海洋技術専門委員会(ISO/TC 8/SC 2)の取り組みとして策定されました。プロジェクトリーダーである海技研の小島隆志上席研究員が、研究に基づく実証データを活用して規格開発の舵取りをしました。この規格は、船底防汚塗料が褐藻に対してどれだけの防汚効果を持つのかを、実験室レベルで科学的に評価する方法を世界で初めて標準化したものです。
船舶の船体に付着する生物による汚損は、推進性能の低下や燃費悪化だけでなく、外来種の移入に繋がる重大な環境問題です。このため、船底防汚塗料は長年にわたり使用されてきましたが、その性能を評価する国際的に認められた試験方法が存在しなかったため、評価の統一性が求められていました。
ISO 21716シリーズは、既に発行されている第1部から第3部までに続き、このたび新たに第4部が追加されたことで完結しました。これは生物試験を用いて船底防汚塗料の防汚性を評価するための国際的な手法が確立されたことを意味します。具体的には、褐藻類の一種であるシオミドロ属の色彩変化をもとに、成長抑制効果を評価する実験法が具体的に規定されています。
この取り組みは、海洋環境を守るための新たな試みとして、国際的に高い評価を受けるでしょう。また、ISO/TC 8/SC 2の新しい議長に、2024年1月からは海技研の高橋千織研究特命主管が就任することが発表されており、今後もさらなる国際標準化が期待されます。
従来の防汚塗料における無秩序な評価や試験方法は、業界全体の発展を妨げていましたが、本規格の導入により、船舶関係者は今後、より信頼性の高いデータに基づいて塗料の選定や使用が行えるようになります。また、環境負荷を軽減し、持続可能な海洋利用を可能にする手段としても注目されることでしょう。
船底防汚塗料の性能評価に関する国際規格の発行は、今後の海洋環境保護に向けた大きな一歩となることが期待されています。この取り組みが、多くの船舶における環境負荷軽減や燃費向上に寄与し、持続可能な航行の実現に向けて大いに貢献することが求められています。国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所がリードするこのプロジェクトは、科学技術の進展とともに、未来の海洋に新たな息吹をもたらすことでしょう。