新たな幾何学的枠組みで解き明かす葉の三次元運動
熊本大学大学院先端科学研究部の中田未友希准教授を中心とする研究チームは、植物の葉の三次元的な動きを「回転の軌跡」として解析する新たな幾何学的枠組みを提案しました。葉は昼夜間の開閉や太陽に向かう運動など、様々な向きの変化を伴った動きを行いますが、これらの運動を理解することはこれまで難しい課題とされてきました。特に、葉の運動を角度だけで捉える従来の方法では、葉が辿る経路を十分に把握することができず、運動のメカニズムと結びつけることができませんでした。
本研究では、葉の三次元形状から発生軸に沿った正規直交基底(ONB)を復元し、葉の姿勢を三次元回転の数学的構造であるリー群 SO(3) の元として表現しました。この手法を用いることで、葉の運動を SO(3) 上の回転軌跡として可視化し、解析することができるようになりました。
特に「祈りの植物」として知られるマランタ・レウコネウラ(Maranta leuconeura)を対象とした研究では、重力方向を変化させた後の葉の再定位過程を観察し、葉が最短経路から逸脱した経路を経由する場合があること、またその逸脱の程度とスイング寄与率との関連が示唆されました。これにより、葉の運動がどのように変化するかのメカニズムの理解が一歩進むことが期待されます。
本研究で用いた測定技術として、スマートフォンアプリによる3D Gaussian Splattingによって取得した三次元データが導入されています。繰り返しになりますが、この新たな枠組みは他の植物種やさまざまな計測手法にも原理的に適用可能であり、今後の研究によって多様な植物の運動現象の解明が進むことでしょう。
今後の展望
研究チームは今後、「仮説から予測される軌跡」と実測された軌跡を定量的に比較分折することで、葉の変形メカニズムや環境刺激(重力や光など)の寄与を明らかにする研究も期待されています。これは、従来の角度の時系列解析では立てることができなかった問いに対して新たなアプローチを提供するものです。そのため、異なる計測手法やデータから得られる情報を組み合わせることで、植物の進化的多様性や種間比較の理解が深まることが期待されています。
数理科学との連携
さらに、SO(3) 上の軌跡解析からは植物科学の枠を超えた数学的な問いが浮かび上がり、数理科学との協働による理論的深化が望まれます。これにより、植物の運動研究が新たな進展を遂げるだけでなく、異なる科学分野との連携によって新しい知見を得るための道筋を開くことができるでしょう。こうした多様なアプローチからの知見は、植物科学だけでなくあらゆる自然現象の理解を深めることに寄与するかもしれません。
今回の研究は、令和8年5月4日(月)に学術誌『Plant and Cell Physiology』に掲載されました。さらなる研究の進展が期待されます。