産業技術総合研究所が心血管疾患リスクを簡便に測定する技術を開発
最近、国立研究開発法人産業技術総合研究所により、心血管疾患(CVD)リスクを早期に発見する新しい技術が開発されました。この技術は、脈波伝播速度(PWV)法を用い、上腕脈波と心音を同時に計測することで、簡便に近位大動脈の硬化度を評価します。これにより、従来の検査方法よりも早期かつ高感度にCVDのリスクを見つけることができると期待されています。
CVDのリスクとその重要性
心血管疾患は、国内において主要な死亡原因や要介護の要因とされています。心血管疾患の発症リスクを左右するのは動脈硬化の度合いであり、それを測定することは疾患の予防につながります。特に、中年期以降に顕著に増える上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)は、動脈硬化の重要な指標となります。一方、今回開発された心臓-上腕脈波伝播速度(hbPWV)は、30歳代から加齢に伴い増加することが特徴です。
簡単で負担の少ない検査方法
新技術の最大の利点は、簡単に計測可能なことです。従来のbaPWVの検査では、仰向けの姿勢で上腕と足首にカフを巻く必要がありましたが、hbPWVでは、通常の座位で上腕血圧を測る要領で、心音と脈波を同時に計測する方法を取り入れています。これにより、患者や医療従事者への負担が軽減されると期待されています。
社会的背景と研究の経緯
心血管疾患のリスクの早期発見は健康維持において極めて重要です。動脈硬化は加齢に伴って進行するため、早期のリスク評価が求められています。過去には、動脈スティフネスを評価するPWV法が提唱されていましたが、実際の臨床現場では普及しにくかったという経緯があります。このような背景を受け、産総研はテキサス大学と共同で、新たな指標であるhbPWVの開発に取り組んできました。
hbPWVの有用性と今後の展望
この研究では、10年以上にわたる企業健診のデータを用いて、hbPWVとCVDリスクの関係性を明らかにしました。横断研究及び追跡研究において、hbPWVは加齢に伴い持続的に増大し、CVDリスクとも強い相関を示しました。さらに、hbPWVはbaPWVよりもCVDリスクを高い精度で判別することができることが判明しております。今後、この技術を実際の検査機器に搭載することで、CVDリスクを早期に見つけるチャンスが増えることが期待されます。
おわりに
心血管疾患は高齢化社会においてますます重要な健康課題です。この技術の実用化が進むことで、多くの人々が早期にリスクを把握でき、予防に繋がることを願います。詳細な研究内容は、2024年8月1日に学術雑誌「Hypertension Research」に発表されていますので、興味のある方はチェックしてみてください。