胃がん免疫抑制のメカニズムを解明した研究
千葉大学大学院医学研究院の顧文超特任准教授と復旦大学附属華山医院の莫少聡氏らの研究チームは、胃がんにおける腫瘍微小環境(TME)の構造が、がんの進行と免疫療法への抵抗に及ぼす影響を探るための研究に取り組みました。
研究の背景
胃がんは、腫瘍微小環境の特性によって、免疫反応や治療効果が大きく変わることが知られています。しかし、どの部分が免疫の働きを阻害し、がんの進行を助長しているかは未解明でした。本研究では、マウスおよびヒトの胃がん組織を対象に、空間トランスクリプトーム解析を用いてこの問題に挑みました。
研究成果
1. 危険領域の発見
研究により、胃がん組織内に「Danger Zone」と呼ばれる特異的な領域が存在することが分かりました。この領域は特にびまん型胃がんに多く見られ、進行期の胃がんや、免疫抑制的なTMEと強い関連がありました。
2. 患者層別化と予後予測
「危険領域」の遺伝子発現パターンによって、胃がん患者を2つのタイプに分けることができました。そのうちの一つは、予後が悪く免疫療法への反応が低いことが示されました。また、機械学習アルゴリズムを使用し、胃がんのタイプや予後を高精度で予測することが可能になりました。
3. 免疫抑制機構の解明
研究結果によれば、危険領域内のCCDC80陽性線維芽細胞が、CD8陽性T細胞をCXCL12-CXCR4シグナル経路を介して包み込むことで、T細胞機能を阻害していることが示されました。これにより、T細胞の表面にある抑制受容体(PD-1やTIM-3)の発現が増加し、免疫応答が著しく抑制されていました。
4. AIによる予測モデルの構築
さらに、H&E画像を用いて、病気の進行リスクが高い領域をAIを活用して予測できるモデルを構築しました。これにより、臨床診断の現場での活用が期待されています。
研究の今後
今回の研究は、胃がんにおける免疫抑制の空間的メカニズムに新たな理解を提供しました。今後は、CCDC80陽性線維芽細胞やCXCL12-CXCR4シグナル経路をターゲットにした新たな治療法の開発を進めるとともに、H&E画像に基づく危険領域スコアの臨床応用に向けた検証を行っていく方針です。これにより、胃がん患者の治療戦略がより効果的になることが期待されています。
論文情報
この研究の成果は2026年3月7日に学術誌「Apoptosis」で発表されました。興味のある方はぜひご参照ください。論文へのリンク:
10.1007/s10495-026-02287-1