量子情報の非局在化、新たな実証成果
2025年4月11日、理化学研究所(理研)、クオンティニュアム株式会社、慶應義塾大学の3者からなる共同研究グループは、周期駆動系を模した量子回路を用いて、量子情報が非局在化した状態、すなわち「スクランブリング状態」を成功裏に準備できたことを発表しました。この画期的な成果は、量子コンピュータの利用領域の拡大に寄与することが期待されています。
スクランブリング状態とは
スクランブリング状態は、量子情報の復元や量子多体系の計算において非常に有用な性質を持っています。実際、今回の研究により、従来ランダムな量子回路による議論が一般的だったこの状態を、周期駆動系の量子回路でも準備することが可能であると証明されました。
この研究は、イオントラップ型量子コンピュータを使って実施され、様々な理論的考察とエラー緩和技術を組み合わせることで、量子操作の忠実度を確保しました。成果は、科学雑誌『Physical Review Research』に掲載されています。
量子コンピュータの進化
量子コンピュータは、物理系の量子ビットに対して、量子力学的な操作を施し、その状態を変えることで情報を処理します。この技術により、従来のコンピュータでは非常に困難だった計算も効率的に実行可能になることが期待されています。しかし、現在の技術では計算中に発生する誤りを即座に訂正することはできず、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)コンピュータと呼ばれる種類のものが使用されています。
NISQはノイズが発生しやすい中規模の量子コンピュータで、実行できる量子操作の数には制限があります。加えて、得られる結果は通常、期待される結果とは異なります。これらの課題に立ち向かうことが、研究開発の重要な部分となっています。
研究手法と結果
今回、共同研究グループは、二つのイオントラップ型量子コンピュータ「H1-1」と「H1-2」を用いて、周期駆動系の量子回路の実装を行いました。周期的な駆動を利用し、量子状態の復元率と忠実度を検証することで、生成された状態がスクランブリング状態であることを確認しました。これにより、周期駆動系の量子回路でも量子情報の非局在化を実証できることが分かりました。
さらに、このスクランブリング状態を利用して、量子多体系での物理量の統計力学計算も実施されました。その結果、期待される数値に基づく良好な一致が得られ、低い状態密度領域ではより多くの測定が必要であることが示唆されました。
今後の展望
本研究の成果は、量子コンピュータの利用例として重要な一歩です。量子コンピュータの性能が向上する未来に向けて、スクランブリング状態の生成や、それを活かした新しいアルゴリズムの開発が進むことが期待されます。必然的に、量子情報理論の進展にも寄与するでしょう。
今回の研究結果は、物理現象と量子情報が交錯する分野における新たなベンチマークを構築し、今後の量子コンピュータ研究における有用な基盤を提供します。ここから生まれる新しい知見が、量子コンピュータのさらなる発展を期待させるものとなるでしょう。