最近、国際海運業界は温室効果ガス(GHG)排出削減のための新しい規制が必要とされています。この流れの中で、海上・港湾・航空技術研究所の和中真之介主任研究員、東京大学大学院の稗方和夫教授、運輸総合研究所の竹内智仁主任研究員、谷口正信研究員らからなる研究グループが、GHG Fuel Intensity(GFI)規則の影響を定量的に評価するための計算モデルを開発しました。本規則は、国際海運における温室効果ガスの排出を正確に規制することを目指しており、具体的には燃料のライフサイクル全体を考慮した上でのCO2排出量強度をコントロールします。
この研究の重要なポイントは、特に「Pooling」と呼ばれる柔軟な規制遵守策に焦点を当てたことです。Poolingとは、複数の船舶がグループ化され、そのグループ全体の平均値で規制を満たすことを許容する制度です。これにより、運航者は個々の船舶単位ではなく、船隊全体として燃料の選択に柔軟性を持たせることができます。この仕組みを効果的に活用することで、短期的には規制遵守コストが低下する可能性が示唆されました。
研究チームは、燃料価格や輸送需要の不確実性を考慮に入れたモンテカルロ・シミュレーションを用いて、GFIの制度を包括的にモデル化しています。シミュレーション結果は、Poolingの導入が短期的にコストを低減させることを示しています。これは、柔軟な燃料選択により、運航者がより効率的な燃料を選ぶことが可能となるためです。
しかしながら、長期的にはPoolingの導入が必ずしも望ましい結果に繋がるわけではないことも指摘されました。従来の燃料を使用する船舶の退場が遅れることで、バイオ燃料などの新たな燃料の導入が必要とされる場面が増え、結果的にコストが上昇する恐れがあるのです。このため、規制の柔軟性を持たせつつも、新しい燃料の導入を加速させる仕組み作りが求められます。この研究の成果は、国際海事機関(IMO)で進行中の規制設計に重要なインプットとなるでしょう。
このように、GHG Fuel Intensity規則およびその制度の柔軟性に関するこの研究は、国際海運の脱炭素化を進めるための一助となることが期待されています。今後のIMOでの議論においても、具体的な制度設計や規制値の策定に貢献し、持続可能な海運業界を実現するための重要な知見を提供することでしょう。研究者たちは、研究結果を通じて、今後の国際規制の方向性を見出す手助けができることを願っています。
【関連情報】
- - 海上技術安全研究所
- - 東京大学大学院新領域創成科学研究科
- - 運輸総合研究所
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