珠洲市で行われる「あえのこと」で地域文化を再生するプロジェクト
2025年12月4日・5日の2日間、石川県珠洲市でユネスコに登録された無形文化遺産「農耕儀礼 あえのこと」が実施される。このプロジェクトは、震災によって影響を受けた地域文化を継承し、未来に引き継ぐための重要なステップである。
プロジェクトの概要
珠洲市では、あえのことを執り行うための場として、震災で全壊した納屋と仮設住宅「インスタントハウス」を使用する。この取り組みは、母屋が壊れた農家とボランティアが協力し、忘れられかけた伝統文化の復元と新しい形への変容を目指している。実施にあたっては、数十年来あえのことを伝承してきた家族の情報を基に、その精神を尊重しつつ、現代に合ったかたちで執り行われる。
継承者たちのストーリー
1人目は、珠洲市で50年以上農業に従事してきた浦野政行さん。震災後は仮設住宅で生活している彼は、祖父の代から続くあえのことの記憶を持っているが、その全容は忘れかけている。「神様をお迎えするために納屋を清める」と語る浦野さんは、伝統を再生するための一歩を踏み出そうとしている。
2人目の岡嶋健市さんは、震災直後からボランティアとして珠洲に関わり、地元で有機米を栽培している。デザイナーとして金沢と珠洲の2拠点で生活する彼の活動は、多様な支援の形を示している。岡嶋さんは、ボランティアキャンプ施設に新たに設けられた「インスタントハウス」であえのことを実施する。
あえのこととは
「農耕儀礼 あえのこと」は、作物の豊作に感謝し未来の収穫を祈願するため、田の神様を家に迎え入れ、もてなす儀式である。奥能登の気候や文化と密接に結びついたこの儀礼は、2009年にユネスコの無形文化遺産に登録された。あえのことは、単なる農作業の一環ではなく、自然への感謝と畏敬の念が込められた儀礼でもある。
現代の課題と未来への展望
地域文化を取り巻く環境は変化しており、あえのことが行われる家庭は少なくなっている。このプロジェクトは、震災による文化的な断絶を乗り越え、未来の世代に文化をどう継承していくかという課題に向き合っている。プロジェクトの発起人たちは、現代社会においても文化が人々の心の中で生き続ける方法を模索している。
今後の展開
あえのことを通じての地域活性化も視野に入れている。特に、珠洲の自然の恵みを活かした「あえのこと弁当」の開発を企画中であり、地域の食文化と連携しながら新たなイベントを開催する予定だ。このように、多様なアプローチを通じて文化の継承はもちろん、ボランティア活動も促進していく。地域の外部からの支援を受け入れることが、文化の継承や地域の振興にどのように寄与できるのか、今後の取り組みが注目される。
まとめ
珠洲市でのあえのことの実施は、地域文化の再生だけでなく、震災からの復興のシンボルでもある。この取り組みによって、珠洲の豊かな文化が後世に引き継がれることを期待したい。参加を通じて、地域の人々の想いを共有し、新たな文化を創造する場となることを願っている。