新材料探索に革命をもたらすアプリ
国立研究開発法人産業技術総合研究所が開発した新しいアプリケーションが、材料探索の分野において大きな注目を集めています。このアプリは、ベイズ最適化手法を用いて、秘匿されたデータを扱いながら効率的に新しい機能性材料を見つけ出すことを目指しています。特に、物性データを他者に知られることなく使用できる技術が組み込まれていることが特筆すべき点です。
秘密を守りながらサイエンスを加速
今回の技術開発の背景には、近年のマテリアルズ・インフォマティクスの進展があります。この分野では、既存の大量の物性データを活用し、新たな材料を迅速に探索する手法が急速に広がっています。しかし、企業や研究機関が独自に蓄積したデータを他者と共有する際には、情報漏洩のリスクが常に付きまといます。
新たに開発されたアプリでは、秘密分散技術や秘匿計算技術を利用することで、この問題を解決しています。個々のデータはまず無意味な断片に分割され、その断片の一部が外部に漏れたとしても、元の情報は安全に守られる仕組みになっています。これにより、データの所有者は自社の特許技術や研究成果を守りつつ、共同研究やデータ共有を行いやすくなります。
磁性材料の最適化に成功
実際に、このアプリを用いて磁石化合物の化学組成の最適化を行ったところ、効率的に高い磁化を持つ材料を発見することに成功しました。具体的には、132の磁性材料候補の中から、データを秘匿しながら最適化を実施し、90%の確率で優れた材料を発見することができたのです。
この成果は、データを隠した状態での探索でも十分なパフォーマンスを発揮することを示しており、実際の材料開発における利用価値が期待されています。
データ共有の新しい形
さらに、このアプリの特徴的な点は、データ共有が新しい形で進められる点です。たとえば、A社とB社がそれぞれに持つデータを共用し、C社が最高磁化を持つ材料を探すというシナリオでは、データそのものは開示しなくても、あらかじめ得られたネガティブデータから有益な情報を引き出すことが可能です。このような協力により、従来のデータを隠したままの連携手法とは異なる、より効率的な探索が実現することが示されています。
今後の展望
今後は、さらに多くのデータを扱えるようにアプリの高速化を進めていく予定です。また、材料探索に有用な他のデータタイプについても秘匿計算技術を適用できるよう、システムの汎用性を向上させていく計画です。
これにより、様々な分野における共同研究活動やデータ的アプローチの向上が期待され、材料科学の領域でのさらなる革新が促進されることでしょう。この新技術の詳細は、2024年12月24日に「Journal of the Physical Society of Japan」に掲載される予定となっています。