氷床の微生物の秘密
2025-12-09 14:27:19

グリーンランド氷床の微生物が示す生命のホットスポットと環境変化の影響

グリーンランドの氷床の下に潜む微生物の秘密



グリーンランド氷床は、地球温暖化による影響を受けて急激に融解が進んでいます。その中で特に注目されているのが、氷床上に形成される小さな水たまり、クリオコナイトホールです。これらのホールは、微生物の生息地であるだけでなく、氷床の融解にも大きく関与しています。千葉大学大学院理学研究院の竹内望教授を中心とした研究チームは、クリオコナイトホールに生息する微生物群の生態系とそれによって影響される炭素の蓄積について調査を行いました。

研究の背景



地球温暖化が進む中、北半球最大の氷河であるグリーンランド氷床は、海面上昇の主要な要因となっています。この氷床の表面には、クリオコナイトとは呼ばれる暗い物質が堆積した小さな水たまりが無数に存在します。このクリオコナイトは太陽光を吸収し、氷の融解を促進する役割を果たします。そして、これらのホールの中には、多くの微生物が生息しており、その中にはシアノバクテリアや雪氷藻類などがあります。

研究成果



研究チームは、グリーンランドのイサングアータ氷河で測線調査を実施しました。ホールの形態と内部の微生物群の構造に注目し、ホールの深さや安定性が微生物群の生態系と炭素蓄積にどのように影響を与えるのかを明らかにしました。

調査の結果、ホールは「浅い不安定型」と「深い安定型」の2つに分類されることが分かりました。
  • - 浅い不安定型: クレバスのある粗いエリアに多く、深さは5〜15cm程度です。この環境では、雪氷藻類が優勢であり、物理的攪乱に強い特徴があります。
  • - 深い安定型: 比較的安定したエリアに多く、深さは20〜30cmです。このタイプでは、シアノバクテリアが群集の大部分を占め、高い光合成活性を維持していました。

この微生物群体の違いは、ホール内部の炭素蓄積にも影響を及ぼしました。深い安定型のホールからは、より多くの炭素が蓄積されることが確認されました。これにより、微生物群はその生息環境を「自己調節」する能力があることが示唆されています。

意義と未来の展望



今回の研究は、氷床の地形が微生物生態系にどのように作用するのかを示す重要な知見です。温暖化が進むと、クリオコナイトホールの状態が浅い不安定型にシフトする可能性があり、その結果、氷床の融解速度や極域の炭素循環に大きな影響を与えることが懸念されています。
今後は、これらの知見を気候モデルに組み入れることで、より正確な氷床の将来予測が行えることが期待されています。また、この研究はかつての寒冷期や地球外の生命探査にも応用されることが予想されます。

用語解説


  • - クリオコナイトホール: 氷床にできる水たまりで、底部には暗色のクリオコナイトが堆積している。
  • - シアノバクテリア: 光合成を行う微生物で、糸状の構造を持つ。
  • - 雪氷藻類: 厳しい環境に適応し、氷や雪の上で成長する藻類。
  • - 炭素循環: 地球上で炭素が循環するプロセスで、微生物もその一部を担う。

この研究は、日本学術振興会の補助金などを受けて進められ、今後の研究がさらに期待される分野となっています。


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