ハワイ・マウナケア山で赤い雪を生む雪氷藻類の新発見
大阪工業大学、山梨大学、千葉大学などの共同研究チームが、ハワイ島のマウナケア山において赤い雪を引き起こす雪氷藻類を発見しました。この研究は、雪氷環境に適応した微生物の進化過程を解明すると共に、気候変動の影響を考察する重要な成果となるでしょう。
研究の背景
雪氷藻類は、北極や南極、さらには高山で雪の上に生息する微生物で、特定の条件下で繁殖すると雪を赤く染める「赤雪現象」を引き起こします。例えば、古代からこの現象は知られ、ダーウィンも観察したことが記録されています。赤色は、紫外線から身を守るために蓄積されたアスタキサンチンなどの色素に由来します。これらの藻類は、雪面の反射率を低下させ、地球の気候システムにも影響を与えています。
今回注目されたハワイのマウナケア山(標高4,207メートル)は、熱帯地域にありながらも積雪がある特異な場所です。これまで科学的に確認されたことがなかったため、今回の発見は大きな意味を持ちます。
発見の経緯
2023年、ラニーニャの影響で低温が続いたため、ハワイでは異例の長期積雪が観察されました。これにより、マウナケア山では赤雪が発生する可能性が生じ、研究者たちは新たな調査を行いました。この調査により、マウナケア山の雪氷藻類が確認され、遺伝子解析が実施されました。
研究成果
マウナケア山での調査では、2年にわたり採取した雪試料から、雪氷藻類の主要な系統が解明されました。それによると、約95%の遺伝子はハワイ島固有の系統であることが分かりました。これにより、長期にわたって独自に進化した藻類が存在することが明らかになりました。一方で、広域で分布する系統も確認され、雪氷藻類が時折、ハワイに飛来していることが分かりました。
特に、「クロロモナディニア」グループは、群集を構成する主要な部分であり、ハワイ島特有の系統を持っていました。また、「サングイナ属」は、広く分布する種であり、雪の残りが長期化する際に顕著に増加する傾向が見られました。これらの結果、赤雪現象がどのように形成されるのかが詳細に理解されることとなりました。
意義と今後の展望
この発見は、地球上での微生物の分散・進化のメカニズムを理解する上で重要な一歩です。今後も気候変動に伴う影響を考慮して、ハワイ島だけでなく他の山域でも同様の調査を進める予定です。また、今世紀末までにマウナケア山の降雪頻度が減少することが予測されている中で、固有の遺伝的多様性が失われるリスクが高く、環境保護の観点からもこの研究の意義が増していくことでしょう。さらに、雪氷藻類の研究は地球環境変動に対する生命進化の過程を理解する手助けとなると期待されます。
この研究成果は、国際的な科学的協力の基盤となり、将来的には気候変動さへの対策にも寄与することが期待されます。
用語解説
- - 雪氷藻類: 雪や氷上で生息する藻類で、紫外線から身を守るために色素を蓄積。
- - 赤雪: 藻類が大繁殖することで雪が赤く見える現象。
- - ラニーニャ: 世界的な気候変動現象で、通常は冷涼な条件をもたらす。
本研究は、JSPS科研費による支援を受けており、多くの専門家が関わっています。また、現地の協力も受け、実施されたことに感謝の意を表します。