交渉と不公平な提案
ヒトの社会生活において、交渉に関するさまざまな局面が存在します。家庭内の賢い話し合いからビジネスの意思決定、さらには国際的な関係に至るまで、私たちは日常的に何らかの形で交渉を行っています。この過程で、私たちが直面するのが「不公平な提案」です。たとえば、金銭やリソースの分配に関して、自分の受け取る分が少ないにもかかわらず相手の提案を受け入れることがあるでしょう。その理由に迫った研究結果が発表されました。
脳の役割
本研究を主導したのは、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の未来ICT研究所に所属する研究者たちで、交渉における不公平な提案を受け入れる際の脳内メカニズムに注目しました。彼らの研究によって、ヒトが不公平な提案をどう受け入れるのか、その背後には脳の背側前帯状皮質が関与していることがわかりました。この部分の脳が「不公平に対する感情」を抑えることで、不公平な条件でも提案を受け入れることにつながるというものです。
実験では、63名の参加者にfMRIで脳活動を観察しながら、「最後通牒ゲーム」という課題を実施しました。このゲームでは、異なる提案者から金銭分配の提案を受け、各参加者はそれを受け入れるか拒否するかを判断しました。結果、背側前帯状皮質と腹外側前頭前野という2つの脳部位が密接に関連し、不公平提案を受け入れる確率が上昇することが分かりました。
脳活動の解析
この研究において用いられたドリフト拡散モデル(DDM)によって、参加者が不公平な提案を受け入れる際に脳内でどのようなプロセスが働いているのかを解明しました。不公平な状況での合意形成は、単なる報酬の最大化の枠にとどまらず、より複雑な選択が影響していることがクローズアップされました。参加者が不公平な提案を認知した時、背側前帯状皮質が働きかけ、最近知られている腹外側前頭前野と連携して扁桃体の感情を抑制することが分かりました。
結果と今後の展望
研究の結果は、私たちが不公平な提案を受け入れる際の脳内メカニズムにおいて、背側前帯状皮質が果たす役割が重要であることを示しています。この知見は、交渉の過程で発生する不必要な対立を緩和し、より納得感のある分配制度の設計に寄与する可能性を秘めています。今後の研究では、脳の活動に基づく人間の行動変容を明らかにし、実際の社会システムへの提案として具体化させていくことが期待されます。
結論
このように、ヒトの脳の仕組みを理解することで、交渉の場における不公平の受け入れプロセスを解明し、その結果を実社会に応用することが急務です。今後、この研究成果がどのように実践に活かされていくのか、注目していきたいと思います。
参考文献
- - Shotaro Numano, Chris Frith, Masahiko Haruno, "The human dorsal anterior cingulate facilitates acceptance of unfair offers and regulates inequity aversion", PLOS Biology. DOI: 10.1371/journal.pbio.3003007