音楽と映像が感情を喚起する脳部位を解明した研究の意義
近年、感情という人間の複雑な心理を科学的に解明しようとする研究が進んでいます。最近発表された研究は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)とともに、パナソニック株式会社エレクトリックワークス社、同志社大学の研究者たちによって行われました。彼らは、fMRIを用いて、映像視聴中の感情の喚起に関連する脳の部位を特定することに成功しました。この発見は、感情を引き起こすメカニズムの理解を深め、将来的な製品やサービスの開発に大きな影響を与えると期待されています。
発表の背景
人間は五感を通じて世界を認識し、視覚や聴覚を通して得られた情報に基づき感情を経験します。しかし、具体的にどの脳部位が感情の喚起に関連しているのかは、これまで明らかにされていませんでした。主に、複数の知覚刺激による結果として、特定の脳活動が観察されるため、感情を扱う研究が難しいとされてきました。これに対し、NICTの研究は感情の喚起と脳活動の関連性を明確にした意義深いものです。
研究の成果
この研究は、実験参加者が映像を観賞しながら、その映像が発する感情が視覚的な刺激から生じたものか、聴覚的な刺激から生じたものかを自己報告する形式で行われました。実験には、男女合わせて12人の参加者がありました。彼らに視覚刺激として自然や風景の映像を流し、音楽としてはシンプルなピアノの曲を使用しました。
参加者は40秒間におよぶ24種類の映像を視聴し、その際に彼らの脳活動がfMRIによって記録されました。その結果、特に感情が喚起された際に活動する脳部位が異なることが判明しました。聴覚野と島の脳部位が、どのような刺激が感情を喚起したのかを決める役割を持っていることが示されました。
今後の展望
この研究結果は、感情の喚起を脳の観点から理解するための新たな道を開きました。その知見は、今後の「感動」に関する研究や、製品・サービスの開発に活かされることでしょう。特に、脳からのアプローチを通じて設計される「ニューロデザイン」に基づくモノづくりには、ヒトに寄り添ったサービスや社会の構築に貢献する力があると考えられます。
最終的には、脳科学とデザインの融合により、より多くの人々に感動を与えることができる社会の実現が期待されています。こうした研究は、2024年9月12日付の「Scientific Reports」にも掲載され、大きな注目を浴びています。
論文情報
論文名: Brain activities in the auditory area and insula represent stimuli evoking emotional response
掲載誌: Scientific Reports
DOI:
10.1038/s41598-024-72112-9
著者: Yoshiaki Tsushima, Koharu Nakayama, Teruhisa Okuya, Hiroko Koiwa, Hiroshi Ando, Yoshiaki Watanabe