キリンと東京大学が明らかにした腸の老化のメカニズム
2025年12月、キリンホールディングス株式会社と東京大学が共同研究を通じて、ヒトiPS細胞由来の小腸オルガノイドを用いて、細胞老化が栄養素の吸収に与える影響を世界初で確認しました。この成果は、「腸の老化」に関する理解を深め、健康な老後を支えるための重要な洞察を提供します。
研究の背景
現代社会では超高齢化が進み、老化に伴う健康問題が深刻化しています。特に、高齢者における腸の機能低下は栄養吸収の低下を引き起こし、フレイルなど様々な健康課題に関連しています。これまで腸の老化をヒトで評価することは難しかったため、適切な研究が行われていませんでした。しかし、キリンと東京大学はこの課題に立ち向かうために共同研究をスタート。ヒト小腸オルガノイドを用いた細胞老化モデルの開発に成功しました。
研究の成果
栄養吸収能力の低下
本研究では、小腸オルガノイドの細胞老化を誘導した結果、糖やアミノ酸の吸収に関連する遺伝子の発現量が減少し、細胞老化により栄養素の吸収が低下することが示唆されました。具体的には、SLC5A1(糖取り込み遺伝子)やSLC16A10(アミノ酸取り込み遺伝子)の発現量が減少し、糖の吸収量にも顕著な影響が見られました。
EMTの関与
さらに、研究チームは上皮間葉転換(EMT)が関与していることに気づきました。EMTは上皮細胞の特性が失われ、間葉系細胞の特性を持つようになる現象で、このプロセスに関与する遺伝子の発現が増加していることが確認されました。これにより、高齢者の腸の栄養吸収機能が老化によって低下する理由の一つが明らかになりました。
今後の展望
この研究から得られた知見は、腸の老化に関する理解を深めるだけでなく、未来の腸の健康を維持するための機能性素材の開発にもつながると期待されています。研究チームは、「人生100年時代」を支える腸の健康の維持を目指し、さらなる研究を進めていく意向です。
まとめ
本研究の成果は、腸の老化によって引き起こされる栄養素吸収の問題に新たな光を当てました。キリンと東京大学の共同研究によって、腸の老化メカニズムが解明されることで、健康維持や疾病予防に向けた新しいアプローチが生まれることが期待されています。これにより、私たちの食と健康の未来がより豊かになることでしょう。