胎児脳形成の理解を深める計算機モデル
1. 研究の概要
東京都立大学大学院の保前文高教授と共同研究者たちは、妊娠中のヒト胎児における脳形成プロセスを解明するための国際的な研究を実施した。この研究では、ニューロンが移動する際の「足場」と呼ばれる構造の分布を計算機モデルを用いて仮想的に構築し、脳のマクロ構造に対する理解を深めることが目的である。
2. 研究の背景
人間の脳は胎児期に非常に急速に発達し、その際に複雑な脳溝や脳回が形成される。このプロセスにはニューロンの移動が不可欠であり、今回の研究はその仕組みを探求するものである。ラジアルユニット仮説に基づき、神経幹細胞が形成する足場に沿ってニューロンが移動することが知られているが、足場の分布が脳形成に与える影響については未解明な部分が多かった。
3. 計算機モデルの構築
研究者たちは、胎児のMRIデータを基に、ニューロンの移動を支える足場を全脳スケールでモデル化した。具体的には、足場の向き、供給量、発生の勾配を考慮しつつ、実際の脳の形態を模倣した。このモデルにより、特定の脳領域でのニューロンの移動パターンが分析されることとなった。
4. 主な発見
研究の結果、ニューロンが移動する足場の分布が脳全体で一様でないことが明らかになった。特に、シルビウス溝周辺では多くのニューロンが移動する傾向が見られ、この領域特有の発達が脳の構造において重要であることが示唆された。
5. 研究の意義
本研究は、脳の形態形成において幾何学的要因とニューロン生成の勾配を統合的に理解する手法を提供することで、脳発達に関する新しい視点を与えることに成功した。また、胎児期における脳の発達メカニズムの体系的な記述につながり、将来的には人間に特徴的な言語や認知機能の理解へと寄与することが期待される。
6. 今後の展望
さらに、胎児MRIと計算機モデルの融合により、脳形成の異常が生じた場合にどのような影響があるかを検討できる可能性もあり、臨床応用への展開が期待される。こうした研究が進展することで、ヒトの脳形成の理解が深まり、進化的特性や高次脳機能の発達に関する重要な手がかりが得られることが期待されている。
この研究は、2025年11月10日に科学雑誌「Cerebral Cortex」に掲載された。国際的な研究チームが協力して得た成果は、今後の脳科学研究において大きな影響を与えることでしょう。